希望の涙

 朝ごはんを食べ、家の人に見送られ大会が行われる体育館に千鶴と向かう。眩しい陽に手をかざす。弓道着が重い。


 泣いたことを気づくのではないかとドキドキしたが、千鶴は気づいていないようで、隣で楽しそうに喋っている。体育館に着き、準備運動がてらに外を一周走っていると、ことやを見つけた。ちょうど門から入ってきたところだ。


 息を整えて声をかける。私に気づいたようでことやは嬉しそうに走ってきた。


「おはようございます、澪さん。」


人懐っこい笑みにつられて笑う。やはりあれは悪夢だったのだ。大丈夫、私はできる。


「あれ、澪さん。目が赤い。」


顔を上げるとことやの手が目の前にあった。細い綺麗な指が頬を触る。心臓が痛いほどに跳ねた。千鶴も気づかなかったのに。いや、もしかしたら気づいていたが気を使って、気づかないふりをしてくれたのかもしれない。


「どうかしたんですか。」


心配そうな声に全てを話したくなる。でも話してしまったら正夢になってしまいそう。私はなんでもないと首をふった。ことやは強引に、それでもどこか優しく、大きな片手で頬を包み込んだ。


「僕がいます。だから、お願い。もう一人で泣かないで。」


体が軽くなった。あんなに眩しかった光も今はもう自分の輝きの方が優っている。



 熱い涙が頬を伝う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る