真っ赤
演奏は完璧なものだった。緞帳が閉まり私は急いで立ち上がった。早くこの感動を伝えたいと思ったのだ。
痛いくらい飛び跳ねている心臓を抑え薄暗い舞台袖に駆け込むと、箏を片付けていた。舞台からの光で幻想的に浮かび上がっている。私に気づいたらしく人懐っこい笑顔を向けた。
「ことや。」
聞こえないように呟いたつもりだったのだが、ことやは驚いたように目を見開き赤面していた。
何を言ってくれるのだろうと、待ちわびているようにさえ見えた。どうやら何か言わないと、この恥ずかしい空気からは抜け出せないらしい。
私は居ても立っても居られず舞台に取り残された道具を回収しに行った。衝撃が大きかったらしく、私が舞台袖に帰ってきてもなお呆然と立っていた。
「ことや。」
もう一度呼んでみる。びくりと体を揺らして澪さんと呟いた。私は呆れてしまい
「ほら、荷物持って。後の人がもうきてるでしょ。」
と催促した。ことやはやっと歩き出し、あの畳の部屋に着いて、やっと我に帰ったように叫んだ。
「えっ。」
しっかりしているのか、ぬけているのか。舞台で演奏していた時とは別人だ。でも、どっちも格好いい。
「えっ。」
しばらく、え、としか言わないのでやはり呆れた。
「えっ、じゃないわよ。元はと言えば、ことやがお願いしたんでしょ。」
と、ことやの顔を覗き込むと
「ちょ、ちょっと待ってください。今、僕顔真っ赤だと思うんで見ないでください。」
と顔を隠してしまう。喋られる状態になるまで時間がかかりそうだ。仕方ない。ことやは部屋に残して、自販機に飲み物を買いに行くことにした。
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