僕らはチーム

 お互い冷静になれたところで、並んで壁に寄りかかって座る。いつもの雑談スタイルだ。


「聞いていい。青葉は何で金髪なの?」


心の中でずっと呼んでいてからか、もう青葉と口に出すのは慣れた。対して青葉はまた赤くなっている。赤くなる原因を考えてみたが思いつかなかった。青葉は顔を手で覆って答えた。


「そうですね。何ででしょう。目立つのは苦手なんですけどね、自分がここにいるって気づいてほしかったからでしょうか。


 実は僕の家、代々箏曲を生業としていてですね。もちろん僕もその跡取りとして生まれたわけですが、小さい頃から親から箏を習っていたんです。


 でもその跡取りとしての生活が窮屈に思えてきて––––大人は僕を跡取りとして見ているわけですから––––僕の本質に気づいてほしいって思ったんだと思います。あぁ、もう、動機なんて忘れてしまいましたっ。」


青葉は手で膝を叩き、吹っ切ったように笑った。似たような境遇だが考え方が違う。私は求められている像になりたいと思いそれが生きがいだったが、青葉はそれが嫌だったのだろう。捉え方次第なのか。


「僕の身の上話なんてつまらないでしょ。」


青葉は笑って立ち上がった。窓からさす光があたり、青葉の顔が照らされる。茅蜩の声が聞こえ、どことなく晩夏を感じた。箏の音が響いた。


「神話では、琴は女神が弓を並べて叩いたのが始まりと言われているんです。知ってました?」


弾きながら喋るなど高度な技術だと思いながら、初耳と答えた。残念ながらこの箏は違うのですが、と残念そうに青葉は呟いた。琴は日本、箏は中国発祥で、よく間違う人が多いが弦の本数も琴柱の有無も違うと、いつか青葉が言っていた。


「だから、僕らはチームなんです。」


どういう意図なのか分からなくて、おうむ返しをした。青葉は箏を弾きながら、得意げに答える。


「そう、よく理科とかで分類するときに、似た特徴を持つものは同じグループに入れるじゃないですか。僕らは似た芸に縁があるんです。だからチーム。」


少し強引な気もする。首を傾げている私を横目に青葉は続けた。


「僕らはチームだから、一緒に高みを目指しましょう。」


今一腑に落ちなかったが、とりあえず頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る