箏の爪
残るは青葉だけだが、学校が始まるまでの間待っておくのも気が引けた。連絡しようかと思ったが、生憎連絡先は交換していない。どうすればいいか分からないが、とりあえず学校に行くことにした。何故だか、あの畳の部屋に行けば会える気がするのだ。
高い日に照らされて久しぶりに登校すると、校舎にたくさんの人がいることが分かった。
夏だから出入り自体は少ないが、公務員が意外なところを掃除していたり、教科書会社の営業マンと思われる人が職員室にいたり、暑い中グラウンドで部活動を熱心にしていたり。新しいことを見つけると楽しくなる。
北館はやはり涼しかった。箏の音は聞こえない。青葉はいないのだろうか。音楽室の前を通り、畳の部屋に到着する。
この部屋は鍵がない。襖に鍵を付けられないのはわかるが、安全面で考えると付けるべきだ。
襖を開けると微かに冷たい空気が流れた。先ほどまでいたようだ。部屋を見渡すと、箏と楽譜が片付けられていない。きっと休憩しているのだろう。帰ってくるまで待とうと思い、上靴を脱いで部屋に上がる。
青葉の真似をして箏の前で正座してみる。青葉の爪が転がっていた。前に一度弾き方を教えてもらった。確かこの爪は、親指・人差し指・中指につけていた。青葉は付け方を説明しながら、象牙で作られているのだと自慢していた。
爪をはめてみたら大きかった。恐る恐る弦を弾いてみる。高い音が鳴った。琴線が例えに用いられる意味が分かった気がする。青葉のような綺麗な音は出なかったが、満足だった。
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