自己中探偵と子持ち魔法少女

まさとし

第1話 子持ち魔法少女

「お前って本当自己中だよな」


 何が悪いんだ。人間なんて結局、自分のことが一番大切で、自分のことしか考えてない。それは決して悪いことではない、と俺はそう思う。

 けれど目の前の魔法少女は俺のことを、憎悪をたっぷりと含んだ目で睨みつけている。それはまるで、俺の考えが間違っているとでも言うように。


 ***


「おはようございます」


 という挨拶と共に事務所に入ってきたのはおう 娘班こぱん。髪を短く刈り入れ、くるぶしがちらりと見えるジーパンと白いTシャツというなんともシンプルな格好をしている。


「おはよう」


 挨拶を返して、顔をあげ、王の顔を見る。シュッとした輪郭に、切長の瞳、化粧っけがなく年齢よりも幼く見える。

 時計を見てみると10時の15分前。


「今日はいつもより早いんだな」

「はい。娘のお友達がいつもより早く来ていて、ごねずに登園してくれたんです」

「そうか」


 そこで王のTシャツにシミがついていることに気づいた。どうせ、またあの娘だろう。何も言うまい。


 俺が自己中心的だとしたら王娘班は娘中心的だと言えるだろう。

 王娘班は俺、宇自うじ 己一きいちの探偵事務所に所属する社員の一人だ。仕事内容は書類整理などの雑務を中心になんでもこなす。

 そんな彼女の生活は娘を軸に回っている。朝、娘の世話をし、登園を済ませてから事務所に出社する。保育園が閉まる頃に一度娘を迎えに行き、再び事務所に戻ってきて娘に目をやりながら仕事をする。家に帰ってからも娘の世話をし、娘を寝かしつけるのだろう。

 彼女は一日中娘のことを考えている。俺が話を振っても口から出てくるのは娘のことばかりだ。

 一度「大変だろう、嫌にならないのか?」と聞いてみたことがある。そしたら彼女は笑って「愛する娘のためですから」と言った。

 いや、自分のためだろう。本当に娘のためを思うなら、19で産むな、父親がいないのに産むな、育児に協力してくれる人がいないのに産むな、周りに反対されているのに産むな、娘に了承を得ていないのに産むな。本当に娘のためを思うなら、産まないほうがいいんじゃないのか?結局は自分のためだろう?

 と思ったが口には出さなかった。

 そんなことを口に出したら間違いなく俺は殺される。

 なぜって?

 決まっているだろう。それは彼女があの恐ろしい魔法少女だったからだ。

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