03
アランはこのマンハッタンにおいて『同等に扱われることがなかった』。
アランを好きだという女性は『アジア男子が好き』、『アジアの男の子は優しいし気が弱いから』といって、特別にアランが好きなわけではなかった。アランを尊敬しているという部下もまた『アジア人は勤勉でいい上司だ』という思考がベースにあった。
だから『まるで自分がとても素敵な生き物であるかのように感じる』視線というものを、アランは受けたことがなかったのだ。
だからこそアランはクリーチャーからの視線にとまどい、困惑した。しかし、悪い気持ちではなかった。だからアランは恐れることなく、その触手にそっと頬をすり寄せた。
そうするとクリーチャーはいよいよたまらないというように身もだえして、ついに何本かの触手をアランの体にまとわらせた。それはあたたかく、そうして優しい手付きだ。だからアランは避けることなくその触手を受け止め、さらに疲れた体をその触手にゆったりと預けた。
クリーチャーはアランのその行動にビクリと身を震わせたが、しかしアランが逃げないことがわかるとさらに多くの触手をアランに伸ばしていく。アランはあっという間に触手に全身包まれ、顔だけが出ている状態となった。
クリーチャーは上半身を曲げて、目がついているだけの頭部をアランに近づける。至近距離でギョロギョロとした目を見たアランは、『この目は知っている』と思った。
--それは毎朝、鏡で見る自分の目によく似ていた。
『今日こそは嫌なことが起きませんように』と祈り、しかし『どうせ自分は誰からも価値を与えられない』と絶望する。
--アランはその目を、その思考を、よく知っていた。
彼は触手に包まれた右手を動かした。触手はアランの動きを妨げはしなかったが、すがるように彼の二の腕に絡んでいた。
アランは右手でそのクリーチャーの頬らしきところに手を伸ばした。クリーチャーは最初その意図がわからなかったようだが、アランが右手を差し出し続けると、ゆっくりと、アランの手に自分の頬を当てた。
ヌルリとして、しかしそれはあたたかいものだった。
「ここは寒いから……俺の家に来ませんか……?」
アランがそう笑うと、クリーチャーの全ての目の瞳孔が小さくなった。驚いたのだろうか、それとも怯えたのだろうか。しかしクリーチャーはアランの手からは逃げることはなかった。
--こうして二人は出会った。
嵐のマンハッタンの夜で、さながら運命のように彼らは優しい恋の物語は始まったのである。
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