マイ・ラブリー・プリンセス
木村
プロローグ
恋が始まる場所はもちろんマンハッタンだろう、昔からそう相場が決まっている――とはいえマンハッタンで恋に落ちるとロンドンで別れるものだし、その後パリで再会してもうまくいくかわからない。それもまたマンハッタンの相場というものだ。――とにかくこの物語はそういうわけで例によって例のごとくマンハッタンから始まる。季節はコートを着るには少し早い秋のこと、時刻は深夜三時過ぎ、そうして天候は嵐だ。
そもそもその日は朝から予報通りの嵐で、マンハッタンにつながる全ての交通機関は――表向きは『緊急』、裏では『予定通り』に――一日中ストップしていた。マンハッタンの『ほとんど』の会社で『予定通り』ストライキが起きたため、マンハッタンに通ってくる社員たちは『予定通り』在宅で自由を満喫した。タクシーですらこの日は会社から出ることはなかった。そのためもちろんマンハッタンに住んでいるような富裕層で外に出ている人間は『ほとんど』いなかった。
この日『予報通り』『予定通り』マンハッタンから人が消え、代わりに荒々しい雨音だけが響いていた。下水が溢れだし、ネズミやゴキブリすら高級マンションに入り込み、街には命の気配がなかった。消し損ねられたわずかなネオンと雨音だけのディストピア。
そんな深夜のマンハッタンを、しかし、一人歩く男がいた――それはもちろんこの物語の主人公である。
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