第246話 熟練度カンストの反抗者

 アウシュニヤ国民たちが、その手に武器を取る。

 使い方は簡単。

 銃口を標的に向け、照星を覗いて標的をその中に捉え、引き金を引く。


 万を超える人数で、一斉にこれをやるのだ。

 例え、ほとんどが単発のレールガンだとしても、馬鹿にできない威力だ。


『それでは皆さん、守りの壁を開放します。突撃ー』


 僧侶が放つ、間の抜けた号令に、国民たちはうわあーっと沸く。

 そして、彼らを守るバリアが消えたと同時だ。

 侵略者側のロボットが襲いかかるより早く、国民たちから一斉に、猛烈な弾丸の雨が放たれた。


 ガンガンキンキンと、戦場を甲高い金属音が包み込んでいるな。

 撃たれている弾も、敵と同じ文明で作られているものだ。

 ということで、通用しないわけがない。


 ロボットたちが、次々に倒れていく。

 民衆、調子に乗って前進するわけである。

 

「調子よく進んでますわね。ですけど、わたくしもこれだけの銃を揃えた場面は見たことがありませんわ。まがい物とは言え、一斉に撃たれたらあちらも堪ったものではないでしょうね」


「だな。火力ではデヴォラのオリジナルに劣るようだが、それでもあっちの雑魚ロボを退治するには充分過ぎるだろう。俺の出番は、もっと強力なのが出てきた時だ」


「強力なの、と言うと……来る時に出会ったあれですの……?」


「そういうこと。今度はラストまで、ノンストップで勝負だな」


 俺とデヴォラは、国民たちの後ろに控えている。

 ゲイルを歩かせて、その横にいるのである。


 少し離れた所では、スラッジが象の運ぶ輿に乗り、周囲に号令を下している。

 少年王の言葉は、周囲にいる家臣たちが大きな声で復唱し、人々に伝わる。


 ちなみに、武器はどんどん作られているようで、後方からバケツリレーの要領で運ばれてくる。

 素材はなんと、木。

 なので、一発で中身が焼け焦げて使い物にならなくなるし、そのまま捨てておけば腐食して土に還る。


 SFかつエコな兵器だ。

 やるな、僧侶。


 ちなみに、最低限の安全装置だけが掛けられており、この銃、照星を覗いた上で、標的が生命体以外でなければ引き金が動かない。

 つまり、人間相手に発砲できないのだ。

 良くできてるなあ。


「おもちゃですわねえ」


 バケツリレーを手伝いながら、デヴォラが口をへの字にする。

 超ローコストでエルド教の武器を簡易的に再現したのだから、大したものではあるのだ。


 ただ、デヴォラとしては自分が信じる教えの誇りでもあるわけで、複雑な気分なのだろう。

 ちなみに、ある程度以上の威力を発揮するレールガンとするには、素材に秘密があるのだそうで、そこはエルド教の特許みたいなものなのだとか。


 さあ、次々と供給される武器を手に、国民たちの進撃が続く。

 とにかく、常に数千発を超える弾丸が放たれているわけである。

 移民船側が、明らかに動揺しているのが分かる。


 船の中でロボットが生産されているようだが、出て来る速度が破壊される速度に追いつかなくなっているのだ。

 空に浮かぶ青い船が、グラグラと揺れ始めた。


 あれはなんだ。

 ヒステリーでも起こしているのか。


 その時、俺の懐に入った腕輪が振動した。

 僧侶からのメッセージである。


『移民船が捕獲者の生産をストップしましたよ。外部から捉えられるエネルギー反応が増大しています。これは……来ますねえ』


「よし、俺の出番だな。ゲイル!」


 飛竜は己の役割を理解し、首を下げて俺が乗りやすくしてくれる。


「じゃあ、ちょいと行ってくるので、あとはよろしく」


「ええ、行ってらっしゃいませ。お気をつけて……なんて、あなたには必要ありませんでしたわね? 勝ってらっしゃいな」


「当然だ」


 ゲイルは、高らかに舞い上がっていく。

 スラッジが俺に気付き、手を振った。

 俺もサムズアップして応える。


 国民たちから巻き起こる、神殺しコール。

 応援が背中を押してくれると、気分がいいものだな。


 移民船の正面に俺が到着した時点で、向こうも準備を終えたようだ。

 青い肌を持ち、無数の武器を周囲に浮かせた武人がそこに現れる。


 フェイクシヴァ。

 俺の世界のシヴァ神を模して、これをエネルギーを用いて再現した怪物だ。


「よーし、再戦と行こうぜ。まあ、おたくの手の内は一度見たから速攻で片を付けるけどな」


 俺の言葉に、憤怒の形相へと変わるフェイクシヴァ。

 こいつ、やっぱりあの船に乗っている奴が操ってるんだろうな。

 この表情は、そいつの顔が今まさにこうなっているという現れだろう。


 敵の周囲に浮かぶ武器が、ゆっくりと回転を始める。

 回転しながら、雷を纏い始めているのだ。

 あんなものはデモンストレーションと一緒だ。


 俺は悠然と、ゲイルに命じて間を詰めていく。

 一気に近づくわけではない。


 ゆるり、ゆるり。

 すると、俺目掛けてフェイクシヴァの武器が、一斉に雷撃を放った。


「一箇所に集中攻撃してどうする」


 俺はこいつを剣で受けつつ、手首を返して反転させる。

 雷を受けて返すことには慣れているのだ。


 俺に反射された雷撃は、フェイクシヴァを無視して移民船に直撃した。

 船がガタガタ震える。

 フェイクシヴァの輪郭が、一瞬ぼやけた。


「船が本体かあ。そっちを倒すほうが簡単かもしれんな」


 聞こえるように呟くと、敵の表情が変わる。


 次は、ビームを放ってきた。

 これは、俺の退路を塞ぐつもりか、頭上や左右、足元を、敵のはなった熱線が通り抜ける。

 そして、真っ向から迫るフェイクシヴァ。


「そうそう、定石はそうだよな」


 俺はそのまま直進。

 猛烈な勢いで襲い掛かってきたフェイクシヴァの剣を、バルゴーンで受け止める。

 受けた瞬間、相手の力を利用しながら、合気の要領。向こうの勢いをまるごと、こちらの力を加えて返してやる。

 すると、飛び込んできたはずのフェイクシヴァが吹き飛んだ。


 うむ。

 流石は人造神、素晴らしい馬力だな。


 向こうが体勢を立て直す前に、俺が迫る。

 すると、奴は余裕のない表情をしながら、その姿を消した。


 俺は振り返りもせず、背中に剣を回す。

 すると、そこに出現していたフェイクシヴァの攻撃が、バルゴーンに当たって弾かれた。


「そこは僧侶のインドラ神で見たな」


 さて、ここからはゲイルは乗り物ではない。

 俺の戦うための足場となる。

 彼の上を移動しながら、やや弾き飛ばされたフェイクシヴァに歩み寄り、剣を突き出す。


 これを、敵は再び消えてやり過ごそうとする。

 そんな小技が二度も通じるわけはない。

 俺は切っ先を捻りながら、敵が歪めようとしている空間を巻き取った。


 ワープするためには、空間に穴を空け、任意の空間と結びつけてそこを移動するしかない。

 その穴を、空間を巻き取ることで無理やり塞いだのである。

 これでもうワープはできない。


 人造神が、驚愕に満ちた顔をする。

 慌てて武器を構え、俺の攻撃を弾こうとするが、これを俺は切っ先の回転で受け流し、弾く。


 俺が突く、ということ。

 これは即ち、その時点でゲームセットなのだ。

 氷の精霊王、ストリボーグの全力を持ってしても止められなかった一撃である。


 今や、刺突剣エストックの形になったバルゴーンが、フェイクシヴァの胸板に突き刺さる。

 そして、貫き通す。

 人造神の肉体が、びくんと痙攣した。


 俺は、剣の形状を変化させる。

 両刃の片手半剣へ。

 空いていた手を、バルゴーンの柄に添える。


「“バースト”!」


 切っ先が、一瞬ぶれたように外部の者からは見えただろう。

 突き刺した先端を起点として、そこから同時に、相手を八方向に切断する。

 かつてゲームをしていたころの俺が、巨大なモンスターをソロで狩る時に使っていた技法である。


 ゲーム中の処理速度の問題で、攻撃が同時に発生するのだ。

 これが現実でもできた。

 いや、できるようになったんだな。


 世界の認識を超える技量で、同時複数の斬撃を放ち、相手を内部から八つ裂きにする。

 フェイクシヴァはバラバラに切り裂かれると、それぞれが光の粒子になって消えていったのだった。


 これと同時に、浮かんでいた移民船が急に力を失い、地上に向けて落下を始める。

 僧侶の時よりも極端だ。


 さっきまで、めったやたらとロボットを生産していたし、消耗していたところでフェイクシヴァを放ち、これを倒された事で、一時的にエネルギーを喪失したらしい。

 後は僧侶に任せておけばよかろう。

 そして、下手に地上へ降りるとデヴォラがまたついてきそうだ。


「じゃあ、次の国へ行くか。ゲイル!」


 ぐおーん、と飛竜が鳴いた。

 俺は空中で大きくターンすると、目的地を脳裏に思い浮かべる。

 ここより遥か東にある大国、翡翠。


 宇宙から来た皇帝である、第二総督が支配する都だ。

 あそこはあまり心配がいらない予感がするのだが……まあいい。

 俺は、新たな戦場に向けて跳躍したのだった。




 一瞬にして、翡翠帝国へと降り立つ。

 目の前で、青い船が落ちていくところだった。


「デッドエンド・シューッ!!」


 聞き覚えのある声が響く。

 青い船から放たれたらしきロボット軍が、一直線に撃ち抜かれて爆発していく。

 そうだ、ここはクラウドがいたんだった。


 あの面倒くさいやつに捕まらないうちに、退散するかな……。

 俺がそう考えていた時だ。


「ユーマ! ようやく来たか!」


「ユーマさんお疲れ様です。待っていました」


 竜胆とアリエルの二人が、第二総督のものらしきUFOに乗って近づいてくるではないか。


「妾たちでは、蓬莱にやって来た敵を落とすのはつらい。じゃから、この土地の戦いを手伝いながら待っておったのじゃ!」


「ええ。ですが、それも終わりです。さあ行きましょう、ユーマさん!」


「よし、クラウドに見つからないうちに行くか!」


 ゲイルとUFO、並んで海を越え……目指すは極東の島国、蓬莱なのである。

 

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