第113話 熟練度カンストの狩猟者

「ユーマさんっ、は、早過ぎます!」


 上からふわふわ降りてきたアリエルである。


「なんで降りてきて早々、一人がもう開きになってるんですか!」


「うむ、善は急げと言う」


「こうして見ると、まんまユーマさんの世界の若者なのに……平然とやりますね」


「うむ、世の中やるかやられるかだよ君」


 俺の登場を機にして、火属性の妖精たちが集まってくる。

 ドワーフとリザードマン、亜竜たちだ。


「おおー! 生きとったのか」

「巫女たちが敵に回ったとかおかしいと思っておったんじゃ」

「あれはなにか。センノーっつう奴か」

「怖いのう怖いのう」

「おかしな奴らが現れてわしらの装備も歯が立たん」


「うむ」


 いつものドワーフどものノリを耳にして、俺は重々しく頷いた。


「あれはな、レイアとか言う奴からもらった力らしい。チートと言うのだ。大変卑怯で汚い」


「なんとぉ」

「ずるっこいのう」


 俺たちがわいわいやっていると、向こうさんは陣形を整えたようだ。

 何やら泥人形のようなのがいるな。あれがレイアが作った向こうの兵力か。

 そして、


「て、てめえ、ショウマをよくも! おいコウスケ! リザレクションあるだろ、あれやれよ!」

「だ、ダメだ! ショウマをターゲットに入れられない! もうオブジェクト扱いだよ! あいつ、キャラロストしてる……!」

「マジかぁ……! コンティニューとかねえの?」


 お子様たちかな……?

 見た感じ、前衛が三名と、後衛が二名。

 デュランダルを持った勇者リョウガ君は……逃げたな!


「灰王様! 御身が降臨なされたのならば百人力。敵は強力と言えど寡兵。ここは一気呵成に攻め落としましょうゾ」


「おお、リザードマンの族長だったよな。無事だったか。あいつらガキみたいに見えて結構強いからな。お前たちはあの泥人形を排除してくれ。あと、遊牧民が掴まってるんだって?」


「はっ。我らがおりながら面目次第もなイ。奴らは、突如現れて一瞬で制圧ヲ」


「撤退戦の最中だったって訳か。ま、犠牲は思ったより少ないな」


 俺が見回す辺り、亜竜やドワーフ、リザードマンの死体はあるが、死体の山と言うほどではない。

 勇者連中、特に亜竜を集中的に狩ってたようだな。


 目立つからな。

 だが、狩っていいのは狩られる覚悟がある者だけだぞ。


「では、作戦行動開始だ。指揮は任せた」


「引き受けましタ」

「灰王様ッ」


「マルマルはアリエルと一緒に隠れてろ」


「アイが、あいつら、掴まってテ」


「うむ、それもすぐ助ける」


「うン。おねがいしまス」


 ぺこんとマルマルが頭を下げた。

 かわゆい。


「おーい、相談おわったー?」

「俺らもう飽きちゃってるんだけど」

「ほら、まとめてかかって来いよ!」


「うむ。では行くぞ」


 勇者と名乗る連中がうるさいので、俺はそちらに向かって踏み出した。

 ざっと視認すると、前衛は盾と片手剣、盾と槍、二刀流、後衛はヒーラーらしき奴と、魔法使いらしき奴。

 どいつも、手にしている得物やホーリーシンボルがキラキラ金色に輝いている。


 全てデュランダル級と見ていいだろう。

 まともに攻撃を受け止める訳には行かない。下手に受ければまたバルゴーンが折れてしまうだろう。


「そーれ! 後ろががら空きだぜ! いきなり後衛狙いのファイアボール!!」


 なにぃ。

 ニヤニヤ笑いの魔法使いが、杖を掲げてそこから無詠唱で炎の弾を放つ。

 それは空を飛びながらどんどん大きくなり、後方に下がろうとしていたアリエルを狙う。アリエルの胸元にしがみついていたマルマルが悲鳴をあげた。


 おいおいおい。

 それをやったらもう、俺も加減できないぞ。

 それをやっちゃったら、戦争だぞ。


 俺はバルゴーンを即座に大剣へと変化させ、そいつを足場に空に飛び上がった。

 飛び上がりざまに、バルゴーンの柄を蹴る。


 蹴りながら形状を変更させて片手剣。

 蹴り上げる場所は頭上。

 キャッチしながら、


「リバース!」


 バルゴーンでファイアボールを受け流しつつ、ベクトルを変えて連中に向けて放った。

 これを、盾をもった二人がガッチリとガードする。

 ダメージが入った兆候も全く無い。


「ひゃははは! 見たか? あいつの弱点は後衛の女だよ。すげえ可愛いエルフだから、ほんとはゲットしたいけど、まあ後で幾らでも見つけてハーレムできるしよ。みんな、あいつを狙え!」

「ジェンは策士だな! だけど、飛び道具持ってる連中はみんな別の戦場に行ってるからよ」

「ちっ、じゃあ、俺がエルフの女を攻撃して、あいつの手番をひたすら潰すわ」


 なんて会話をしている。

 その頃には、俺は着地してどんどんと連中に近づいていく。


「お、おいジェン、こっちに来たぞあいつ!」

「へっ、パワーアップしたタンク職の防御力見せてやるぜ!」


 あからさまに盾をかざして、押し込んでくる二名である。

 盾を飛び越えれば槍が、回避しようとすれば剣が襲い掛かる。


 なるほど、鉄壁である。

 だが俺の歩みは止まらない。


「お、おいおい、攻撃して来いよ」


 一瞬、盾持ち連中が戸惑ったようだった。

 俺は無造作に盾に接触する。


「ちっ、このや」


 奴らが慌てて、盾の隙間から剣と槍を突き出そうとした瞬間だ。

 俺は、僅かに開いた盾と盾の隙間に、正確にバルゴーンを突き立てた。

 そのまま素早く、上へ切り抜く。


 剣が弾き飛ばされ、槍が地面に落ちた。

 飛び散ったのは、指だ。


「ぎゃああああああっ!?」

「ゆ、ゆ、ゆびぃぃぃぃぃっ!?」


 防御から、攻撃か牽制に移ろうとしていた連中の指先だけを切り落としたのだ。

 あからさまに、盾の防御体制が薄くなる。

 俺はバルゴーンを大剣に変えると、そのまま力づくで押し通った。


 こいつら、実戦慣れしていない。

 そこを突くのは定石であろう。そして同時に、初見で殺すのが俺のスタイルだ。


 連中の盾を跳ね除けながら、二人の合間に入り込む。

 そこで大剣を握ったまま、俺は一回転した。


「き、キョウタロウ、クリストファ、ロスト……!」


 盾以外は普通の素材なのだな。

 タンクを名乗っていた二人を、四つくらいの塊に分断しながら、俺は一直線に進んだ。


「い、行けトマス! お前切り込み隊長だろ!」

「ふん、だからタンクなんていらねえって俺は言ってただろ。おら、行くぜえっ!!」


 二刀流の男が切り込んでくる。

 回転しながらの、止まらない連続斬りだ。まともに受けたらバルゴーンが折れる。


 うーむ。

 俺はこいつの斬撃をやり過ごしつつ、ちらりと魔法使いを見た。


「よし、この隙に女を焼いて……!」


 あの野郎、手段と目的が入れ替わってやがる。

 俺はバックステップしながら、地べたの土を蹴り上げた。


「ぬおっ、小癪な!」


 土が降りかかってきたのを、二刀流は慌てて切り払う。

 即ち隙である。

 この瞬間、俺は大きく魔法使い目掛けてダッシュしている。


 そこへ、上空へ吹っ飛ばした、タンクどもが持っていた剣が降ってきた。

 まだ指が一本張り付いてるな。まあいい。


 俺はこいつをバルゴーンで弾き飛ばす。

 狙いは一直線、魔法使いだ。


「げえっ!?」


 まさか剣が飛んでくるとは思わなかったのだろう。

 魔法使いは目を見開きながら、横にいたヒーラーを突き飛ばした。剣の方向に。


「えっ、ジェン!? ぐええっ」


 剣がヒーラーの腹に突き刺さる。

 なんとひどい事をするのだ。仲間を盾にするなんて。


「くっそ、俺を無視するな!」


 後ろから二刀流が追いすがってきた。

 俺は前方に身を投げる。


 すると、頭上を二刀の斬撃が掠めていった。

 前転しながらヒーラーまで接近すると、俺は、そいつの腹から生えた剣の柄を握りながら立ち上がった。


「ぎゃあああああ! いたい、痛い痛い痛いぃぃぃ!!」

「ひいっ、く、来るなぁ! サンダーボル…げぶうっ」


 後ろ手に、魔法使いを剣の柄で殴り飛ばす。


「背中を見せたな、死ねえええ!!」


 二刀流が襲い掛かってきたところに、俺は握った柄ごとヒーラーを振り回した。


「えっ」


 ヒーラーは横目に、迫ってくる二刀流を目にしたことだろう。

 そこで、こいつは輪切りになった。

 仲間を斬るなんてひどい事をする奴だ。


「あ、ああああああっ!?」


 愕然とする二刀流。

 これもまた隙である。俺はヒーラーの背中からバルゴーンを突きこみ、二刀流を串刺しにした。


 二刀流は勢い良く武器を振り切っていたから、これを防ぐ手段は無い。

 何より仲間を斬った事で一瞬放心し、その仲間から生えてきた切っ先に反応できなかったのだ。


 突き刺さったところを無造作に上に抜く。

 バルゴーンの切れ味なら、肉と骨ごと上に断った方が抜くのが楽なのだ。


「ば、馬鹿な! お、俺の盾どもが……!」


 愕然とする魔法使い。

 頭上に俺が大剣を掲げているのを見て、


「ま、待て! 話し合おう! そ、そうだ! 俺はお前の味方になる! 最初から女神なんて気に入らなかったんだ! だからべぶっ」


 ストンっと大剣を振り下ろした。

 綺麗に開きになる魔法使いである。

 おおよそ、五人を倒すのにかかった時間は30秒ほどか。


 こういう手合いを、レイアが何人召喚しているのかは知らないが、今後も少々手が掛かりそうである。

 さて……。

 周囲を見回すと、今まさに、統率を失った泥人形どもをリザードマン部隊が押し返しているところである。


「よし、加勢するか!」


 俺はバルゴーンを担ぐと、戦場へ走ったのであった。




「灰王様ーッ」


 マルマルが走ってきた。

 尻尾を使って飛び上がって、俺に抱きついてくる。


「うむ、よしよし。怖い奴らは俺がやっつけたからな」


「むむゥー」


 ぎゅっとしがみ付くマルマル。

 さぞや怖かったに違いない。


「灰王様。我らリザードマン、未だ士気軒昂ナリ」


 族長がやってきて跪いた。

 続いて、リザードマンたちも。

 ポカーンとして突っ立っているのはドワーフたちである。奴ら、相変わらず場の空気を読めなくて大変好感度が高い。俺はお前たち好きだぞー。


「あっ、わしらはもう戦えないぞ」

「戦ったら死ぬぞ」

「死ぬ自信があるぞ」

「逃げるだけで必死じゃった」

「戦場はこりごりじゃよ」


「ああ、お前らの主戦場は鍛冶場だからな。持ち場に戻ってよし」


「おおー」

「話が分かるお人じゃのう」

「仕事に戻るかー」


 ドワーフどもはてくてくと持ち場に戻っていった。


「ありえない位マイペースですよね、彼ら……。だからドワーフって苦手なんです」


 アリエルが顔をしかめる。

 まあ、それでもあのドワーフども、ひたすら逃げに徹してそこそこ生き残ったのだ。


 そこは褒めてやるべきであろう。

 なんか、俺が知るファンタジーのドワーフとは随分違うが。


「ところでユーマさん、さっきやっつけた敵、最後に何か言ってませんでした? こっちに付くとか何とか」


「簡単に裏切る奴を信用できるか。それ以上に、奴はお前とマルマル相手に背後から攻撃したからな」


 マルマルの頭をなでる。

 おお、ひんやりしていて気持ちいい。子供リザードマンは、鱗も柔らかいのだな。


「さあ、続けて行くとしよう。遊牧民を奪還するぞ。そこに、みんなもいるかも知れんからな」


「ハッ。灰王様、かの者どもを率いていたのは……我らが火の巫女にございまス」


「サマラか……! 何かが乗り移って操ってやがるな。全く、許せんなあ」


 俺は、リザードマンと亜竜たちを率いて進行を開始する。

 目的地は、遊牧民の居留地である。

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