人類はGame Overになりました。その後始末を任されてしまった男の物語

@nanasinonaoto

プロローグ

 俺の名前は三田創司さんだ そうじ。35歳。たぶん。

 その日も一日ずっと積みプラを作り、塗装し、累計一千作品目を完成。達成感に浸りながら、久々に睡眠を取ろうとしたところで、部屋にいる筈のない見知らぬ誰かから声をかけられた。

「ようやく気付きおったか。集中し過ぎじゃ、戯け者め」

 それは八十代くらいのおじいさんに見えたけど、自分の祖父母は父母両側ともとっくに死んでた。

「えっと、誰?なんで、どうやってここに?」

「何度も声をかけたし己が何者かも話しかけてきたのをお前さんが聞き流し続けてたんだろうが。じゃが、わしは慈悲深い神であるからして、再度説明してやろう。わしはこの世界の神で、お前達人類の創造神じゃ。そしてここに来たのは、お前さんに、人類絶滅後の後始末を頼みたいからじゃ」

「か、み、さま?それに、人類が絶滅って、あれ、じゃあ自分は?」

「お主、ニュースとか見ておらんかったのか?」

「会社に出勤する日は、電車の中で確かめるくらいはしてたんですが、コロナウィルスの蔓延で在宅勤務が増えたりしてたから」

「お主、死んでからずっと模型を作り続けておったろうが」

「死んだ?自分が?いつ?どうやって?」

「ゾンビにかじられて、ゾンビになったんじゃよ。そのくらいも覚えておらんのか?」


 確か、言われてみれば、ドアは半開きというか半壊してて、玄関先辺りは血溜まりだったのだろう赤黒く凝固した何かに覆われてた。

 そうか。宅配か何かと間違えてドア開けたら、そこでなだれこまれて・・・


「お主、ゾンビにかじられて、ゾンビになった後も、人としての意識、魂を喪わなかったんじゃよ。本来なら意識の大半を埋め尽くす生者を襲い食らう衝動に全く動かされずに、寝食など人としての縛りをも置き去りにし、そんな自分の状態にも頓着しないまま、趣味に没頭し続けておった」

「そんな、バカな・・・」

「疑うなら、自分の目で確かめてみぃ」

 玄関脇の壁にはめ込まれた鏡で自分の姿を見てみると、ああ、と納得せざるを得ない、ゾンビ映画に出てくるエキストラの皆さん風の誰かと化した自分がそこに映っていた。


「あれ、でも、自分よくゾンビになっても模型作成なんて細かい作業出来てましたね?」

「手指や目などは運良く失われてなかったからの。ふくよかだった腹の中身なんかはごっそり食われておったが」

「ふむ、ダイエットに死亡して初めて成功というのも何だかな。しかし、これで何も食べずに趣味に埋没出来るのなら、ゾンビになるのも悪くないかも!?」

「たわけが!人類が絶滅したんじゃぞ?いくらゾンビになっても人としての意識が残ってたとしても、お前にもわしにもそんな猶予は残されておらんわ」

「えっと、神様。あなたがほんとに神様だったとして、どうして人類が映画みたくゾンビ化して滅びちゃったんですか?それに、コロナウィルスにそんな機能は無かったのでは?」

「わしが神かどうかは、追々理解できるじゃろ。理解させる。

 そしてウィルスじゃがな、元々は人類の社会を変容し、人口を調節する目的だったものに、異世界の神に細工されてしまったのよ」

「異世界の、神、ですか?」

「そうじゃ。仮にわしをアルファ。そいつをデルタとでも呼称しようか。そいつの世界には、こちらからすればファンタジーとして区分されるような、魔物や魔法などが存在する。アンデッドされるゾンビ動死体レイス亡霊といった魔物モンスターもな」

「はぁ。それで、どうしてそんな異世界の神様に侵攻されてしまったんですか?」


 神様ならどうして防げなかったのか?という言葉は口にはしなかったが、そんな考えは読まれたような苦い表情を浮かべ、自称神様は語った。


「お主も読んだりした事があるじゃろう、異世界転移で勇者の産出元になっていたからの。元を断たねばどうしようもならんと、デルタは思い切った行動に出たのじゃ」

「えっと、それが本当だったとして、それがなぜ人類絶滅にまで?」

「言ったじゃろう?人類の調節目的だったウィルスを悪用されたと。感染力は高く潜伏期もあり、感染症が出ない場合も多い。それは奴らの侵攻計画にとっても非常に都合の良い特性じゃった。

 奴らは、アンデッドによる侵攻の障害になりそうな、世界の宗教勢力のトップから抹殺していきおった」


 ああ、確かヴァチカンやメッカ、エルサレムなんかが大規模テロに巻き込まれて、多くの聖職者が殺されたとかニュースやってたのは見た覚えがあった。


「それからレイスやワイトといった実体を持たない亡霊系で軍隊やワクチン開発可能な製薬会社などを制圧。そういった地均しを終えてから、いよいよ人類をゾンビ化するウィルスを世界中に蔓延させた。

 ゾンビにわずかにでも傷つけられた者はゾンビ化し、人間ではなくなる。まして、ゾンビウィルス化する前から空気感染になっていたからな。有力国家の指導者層を根絶やしにされた後は、もろかったよ」

「神様なら、どうにか出来なかったんですか?」

「神が直接手を出せる機会というのは意外に限られておっての。それに我が被造物たる人間達が大量に殺されたからの。彼らに内包されていた魂もまた大量に奪われてしまった」

「奪われたって、いくらでもまた生み出せないんですか?」

「可能といえば可能だろうが、ふむ、そうだな。お前の趣味になぞらえて言うなら、魂を込めた作品は、数をこなす為だけに作った何かと同列に扱えるか?」

「無理、ですね」

「わしとて、そうじゃ。それに人間くらいの存在になると、魂もリソースとして貴重なのじゃよ。だから、三田創司よ。死してなお、人としての魂を奪われなかった者よ。奪われたソウルリソースを奪還する仕事を任されてはくれぬか?無料ただでとは言わん。汝の夢を叶えてやろうではないか」

「えぇと、自分の夢というと・・・」

「自分の製作物の中に入り込んで、思うがままに動かしてみたい、活躍させてみたい。叶えてやろうではないか」

「やります!やらせて下さいっ!ぜひっ!」

「うむうむ。やる気に満ちておるのは良い事じゃ。それではさっそく、奪われた八十億以上の魂を奪還する準備を始めようではないか」


 そんな風に、ゾンビと化したオタクと、人類を絶滅させられてしまった神様の戦いはひっそりと幕を開けようとしていた。

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