第9話 蛍光パンツの真相 ~Side華~

 大翔ひろとがやけ酒をしながら悩み苦しんでいた同時刻。

 都内の居酒屋にて、同じように悩みを抱える少女が一人。

 事の経緯いきさつを話し終え、がっくりと項垂れる私を見て、大学の友人である熊原瑠衣くまばらるいあきれた様子で言い放つ。


「だから言ったでしょうが。蛍光ピンクはやめときなって」

「うぅぅ……だってぇ~」


 私は、ガンガンガンと机を拳で叩く。

 机の上に置いてある皿などがガシャガシャと音をかなでて店内に響き渡る。


「ちょっと落ち着いてはな。他のお客さんに迷惑でしょ⁉」

「だっでぇー!」

「はいはい、華ちゃんは十分頑張りました。よしよし~」


 周りの迷惑を気にして止めに入ろうとする瑠衣るいに対し、私の隣に座る黒髪セミロングの女の子がぽわぽわとした口調で優しく私の頭をでてくれる。


「まぃぃぃー!!!」


 同じく大学の友人である甘台舞あまだいまいは、天使のような笑顔を向けながら慰めるように優しく私の頭を撫でてくれる。

 あぁ、こんな可愛い天使ちゃんに頭を撫でられるだけで、どうして私の心は浄化されていくのだろうか。

 私がまいの可愛さにいやされていると……。


「でも流石に、蛍光ピンクは私もないと思うなぁー」

「ぐはっ……」


 そんな天使のような舞から唐突に放たれた悪魔的な言葉の矢は、私の心にグサリとクリティカルヒット。


「舞。あなたそういう所よ」


 呆れた様子でこめかみをおさえる瑠衣に対し、舞はキョトンとした顔で首をかしげていた。

 私はふらふらと脱力して、そのまま机に突っ伏してしまう。


「私だってさ、勇気出したんだよ? なのに、同じベッドに入っても全く襲ってくる気配ないし、蛍光ピンクのパンツだって気合入れていて行ったのに、興奮してくれるどころか、私にそっと毛布掛けてくれちゃうしさ……。大翔の優しさが嬉しい反面、襲ってくれなかったって言う悔しさが入り混じってて、もう私はどうすればいいのか分かんないよ!」


 唇を尖らせながら気持ちを吐露すると、納得したように瑠衣が頷く。


「なるほどね。それで、怒るにも怒れず今の状況ってわけ。結局惚気じゃない」

「そ、それくらい、華ちゃんにとって大翔さんは素敵な男の子ってことだよね!」


 瑠衣の辛辣な返しに慌ててフォローする舞。

 それぞれ反応は違うものの、私の心情を理解しようとしてくれてるのは伝わってくる。


「うーん……」


 私はため息をついて、左頬を机につけてぼーっと遠くを見つめる。

 本当に期待していたのだ。

 大翔が私の気持ちに気が付いてくれることを。

 朝のホテルで、私は無防備にも蛍光ピンクのパンツをさらけ出し、視感しかんされていると感じながら必死に狸寝入たぬきねりをよそおい、大翔が手を出してくるのをずっと待っていた。

 けれど、大翔が私に手を出すことはなく、私が起きぬよう気を使ってそっと毛布を掛けてくれて……。

 計画は失敗に終わってしまったのだ。


「うぅ……こうなるんだったら、まどろっこしいことするんじゃなくて、もうはっきり『好き』って伝えればよかった」


 後悔の念にさいなまれる私に対して、優しい言葉を掛けて来てくれたのは舞だった。


「そうかもしれないけど、こういうのってやっぱり男の人に気づいて欲しいよね」

「分かる。男子ってホント乙女心分かってないよね」


 舞の発言に対して、瑠衣が共感を示す。


「だから華ちゃん。今回は失敗しちゃったかもしれないけど、次あるチャンスのために切り替えよう。ねっ?」

「うん……ありがと……」


 舞になぐさめられ、私はようやく身体を起き上がらせて姿勢を正した。


「はいっ、ってことで華が今回見事に玉砕ぎょくさいしたので、こうして私達は相変わらず男っ気なしの女三人組ってわけだ! ってことで今日のせっかくの女子会! しんみりとした空気は吹き飛ばして、改めて楽しいうたげを始めようじゃないかー!」

「おぉー!」


 そう宣言して、唐突にテンション高く乾杯をし出す二人。


「ほら、華も早く」

「華ちゃん! いぇーい!」

「い、いぇーい?」


 とまあ、そんな感じで瑠衣と舞が慰めてくれたおかげで、私は何とか気持ちを切り替えることができたような気がした。

 その後はお酒が進み、三人は閉店間際まで女子トークに花を咲かせるので

あった。

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