37. エドガーお兄様とルーファスの勝負の行方


――キィンッ……!カンッ!……キィンッ!キンッ……!


 やっと私が自分の足を引きずりながらも歩いて庭園に着く頃には、エドガーお兄様とルーファスがお互いの刃を斬り結んでいるところでした。


 エドガーお兄様はシュヴァリエ王国騎士団の優秀な騎士で、次期騎士団長とも言われる猛者なのです。

 ルーファスもかなりの手練れだということは分かっていても、私は二人が心配で気が気ではなかったのです。


「エドガーはエレノアのことを本当に可愛がっていたからな。自分が知らないうちに可愛い妹をルーファスに取られたような気がして寂しいんだろう。」

「でも、心配なんです。二人とも私にとって大切なんですもの。」


 隣に立つディーンお兄様と一緒に二人を見守ります。



――ガキィン……ッ!


 逞しい体つきのエドガーお兄様はやはり力が強いようで、度々細身のルーファスは力で押し負けそうになっているのです。


「おら!どうした?そろそろスタミナ不足で集中力が途切れてきてるんじゃないのか?」


 斬りつけながらエドガーお兄様はルーファスに檄を飛ばしています。


「ちゃんとしないとぶった斬るぞ!」


 一瞬の力負けか、ルーファスの頬に一筋の赤い線が走りました。


 それを見て思わず一歩踏み出したところで右足の痛みが走り、その場でたたらを踏んでしまい二人から目を逸らした瞬間にエドガーお兄様の声が響きました。


「俺の勝ちだな!」


 その瞬間、勝負がついたようでエドガーお兄様の剣先はルーファスの喉元に突きつけられています。


「ルーファス!」


 私がその場から駆け寄ろうとしましたが、隣のディーンお兄様がサッと私を横抱きにしてルーファスとエドガーお兄様の傍まで運んでくださいました。


「もう!二人ともやめてください!大きな怪我をするかと思って心配したのですから!」


 ディーンお兄様に抱かれたままで二人に向かって声を掛けました。


 ルーファスは無言で私とディーンお兄様の方へと近づいて両手を差し出します。


「ディーン、貸せ。」

「はいはい。」


 そうしてディーンお兄様の腕の中からルーファスの腕の中へと移動させられて、ルーファスに横抱きにされたままスタスタと邸の方へと移動している時、ディーンお兄様がエドガーお兄様に話しているのが聞こえてしまったのです。


「エドガー、お前の負けだよ。」

「なっ!?何故だ?」

「ルーファスはエレノアが庭に来た途端集中力が途切れただろ。足の悪いエレノアが転ばないかと目を配りながらお前と戦っていたんだよ。」

「そんなまさか。」

「お前が最後に剣を突きつけた瞬間、エレノアがほんの少しよろけたんだ。ルーファスはエレノアが転んで怪我をするんじゃないかとこちらに一瞬視線を向けた瞬間だった。」

「……。」


 そうだったのね。


 私を横抱きにして無言で歩くルーファスを見上げると視線は前を向いたままで、でも思った通り頬を朱に染めていて。

 

「ルーファス、愛しているわ。」


 私はそう伝えずにはいられなかったのです。


 




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