33. 最後のご挨拶ですわね
私がいなくなって、ルーファスがどうなったのか私はとても心配でした。
お父様もお母様も、今日は休みなさいと言うばかりでまだまともに動けない私は言うことを聞くしかなかったのです。
私の知らないところで色々なことが起こっているような気がして、この不安な夜は眠れませんでした。
翌朝侍女が部屋に入ってきた時には私は自分で髪を結い、ワンピースを着ていました。
侍女はとても驚いていましたけれど、これからの生活を考えるとこれが当たり前になるのです。
久しぶりの廊下を杖をつきながら少し右足を引きずって歩いて行くと、ディーンお兄様がいらしたのです。
「エレノア、おはよう。足は痛むかい?」
「ディーンお兄様、ルーファスは?あの人はどうなったの?」
ルーファスのことが心配で、ディーンお兄様の問いかけにも答えずに問いで返してしまったのです。
「そのことについてはまた後で話そう。今日はエレノアと私で陛下のところへ呼び出しがあった。行かなければならないんだ。」
「陛下のところへ……。」
陛下はジョシュア様のことをとても可愛がっておいででしたから、直接何かおっしゃりたいこともあるのでしょう。
朝食は簡単に済ませて、結局王城へ参上するためにワンピースを謁見に相応しいドレスへ着替えてから出かけることになりました。
私は杖をついてゆっくりとではありますが歩くことができたので、ディーンお兄様がしきりに横抱きにしたがるのを断りました。
「エレノア・デュ・アルウィン、及びディーン・デュ・アルウィン面を上げよ。」
「国王陛下に拝謁いたします。」
国王陛下のお言葉に続いて、本来ならばカーテシーで礼を取るところでしたが、右足が不自由なために頭を下げることしかできませんでした。
「エレノア嬢、此度はジョシュアがすまなかったな。彼奴も廃嫡となり、今は城の地下牢へ繋がれておる。今後外に出ることは叶わないだろう。《『可哀想ではあるが》》、致し方あるまい。」
国王陛下はジョシュア様のことを溺愛しているというのは本当のようです。
陛下の近くには宰相であるお父様が控えており、不敬罪に問われるのではないかと思うようなお顔で陛下を睨みつけておいでです。
陛下もそれに気付き、咳払いをなさいました。
「ゴホッ……。それでな、どうやらジョシュアがどうしてもエレノア嬢に会いたいと申しておる。どうか最後に会ってやってはもらえぬか?彼奴ももう二度と其方にも誰にも会うことは叶わないだろう。どうか元婚約者のよしみで別れの挨拶をしてやってはくれんか?」
陛下のお言葉に、その場のお父様とディーンお兄様から冷たい空気が流れてまいりました。
気配がピリピリと突き刺すように感じるのです。
それでも、幼い頃からの婚約者であったジョシュア様に最後のご挨拶くらいはしたいと思いましたので、私は陛下に了承の意を伝えました。
「承りました。最後のご挨拶に参ります。」
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