葛藤

かわら なお

あの時明かされたことがある

「死にたい」

そういう君は少しうつむいて僕に言った

僕は止めなかった


君は驚いたように僕を見たけど

僕は何も感じなかった

ただ少し僕は彼女に見えてなかったんだと思った

君は嬉しそうに笑ってうちから飛び降りた

僕はただ見ていた


君がいなくなって

ふと我に返って下を見るとそこには慌てふためく人と声

そこから記憶はない


「また戻ってきちゃった」

彼女は笑って言った

「死にたいわけじゃなかったの」

「ただどうしようもなかった」

止めるべきだったのか なにか声をかけるべきだったのか

でも 「生きたくない」と泣く君に僕はどう声をかければいいのか分からなくて

ただ動けなくなってしまった

「死にたい」君に「生きろ」というのはあまりに酷な気がして

「生きて」欲しいのは僕で

でもそこに僕はいない

「ただどうしようもなかった」

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葛藤 かわら なお @21115

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