第2話 学校的価値観

 活動場所の視聴覚室には、既に私のバンド――オーシャンゼリゼのメンバーがいるようだった。

「あ、桜。やっほー」

 と、快活に挨拶してくるのは私の元クラスメイトであり、現クラスメイトでもある涼香りょうか。担当はボーカルギター。バンドのの華。

 私が来る前まではギターのチューニングをしていたらしく、を机に体を預けたまま、太ももにこないだ買ったジャズマスタータイプの青いギターを据えている。

 彼女とは中学校、高校ともに同じであるため付き合いも長く、彼女についてはよく知っている。

 性格は気さくな感じ。それでいてどこかっとパきっと生き方を貫いてる気がしてかっこいい。勿論、男子からも絶大な人気を誇る。まさに高嶺の花だ。

 中学校では生徒会長を務め、彼女の名前を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、文武両道、容姿端麗、頭脳明晰、といった数ある誉め言葉の中の最上位に値するものばかりである。

 部活動では吹奏楽部に所属しており、副部長として後輩たちを引っ張っていた。

 わたしが受験生の年に行われた体育祭ではSAXパートとしてセンターを務め、あのとき見せた美麗な笑顔はまだ記憶に新しい。

「やっほー、涼香ちゃん。今日も髪の毛さらさらだね」

 胸元まで延ばされたさらさらのロングヘアはその端正な顔立ちと相まって清楚な感じを引き立たせる。

「琴子ちゃんもやっほー」

「こんにちはです!」

 キーボード担当の琴子ことこちゃん。オタク気質で髪型はショートカット。赤いめがねがトレードマーク。顔はかわいいので、もう少し髪の毛を短くすればいいのにと思うが本人曰はく、これが一番落ち着くらしい。

 もともとアニメとかそういうのが好きで軽音部に入部したらしく、とにかくアニメ全般には詳しく、一時期アニメにどっぷり浸かってた私とよく話が合う。

 他にもいろいろ趣味を持ち、アニメが好きすぎて自作アニメを作ってみたり、月1でゴルフに家族にいくとかなんとか。

 あと、同級生にも敬語を話す。

 これもまた本人曰はく、1番落ち着くらしい。

「あれ、ハルハルは?」

「確かにまだ来てないですね……って、あ。来ましたよ!」

「ごめん、遅れちゃった」

 彼女はドラム担当の波瑠はる。いつからかハルハルという愛称がついた。

 栗色のショートカットがなんとも可愛らしい。小動物的な愛おしさである。

 身長はやや低め。けれどその小柄な体躯とは見合わないほどの芯の強さがあり、なんでも思ったことを言っちゃうタイプ。オーシャンゼリゼのツッコミ担当。

「まだ練習始まってないし問題ナッシングですよ!」

 とそこで、チューニングが終わった涼香がギターを肩に掛けて戻ってきた。

「さーてみんな揃ったところで練習はじめますか~」




「ここ、もう一回あわせるよー」


「うーん、少しテンポが速いかも。私ももうすこしゆっくり歌うから、ビートあわせよ」


「ここの16分休符を意識してみるといいんじゃないかな」


 やっぱり涼香ちゃんはすごいなとつくづく思う。

 メンバーを仕切るリーダーシップ。

 仲間との協調性。

 中学生の時に培った音楽知識。

 勉強面でもいつも成績上位。

 性格も優しく、周りからの信頼も厚い。

 まさに学校が思う

 クラスの象徴。

 おそらく涼香ちゃんの学力があったら、そこそこの国公立大学はまぁ受かるだろう。

 今後の努力次第では旧帝大も全然夢じゃない。

 どこぞの先生は、

「いい大学に入っておけば、くいっぱぐれることはないよ。」

 だとか、

「うちの高校に入ったのだから、大学進学は絶対ですからね。」

 と平気で言う。

 まさにの強要。


 そもそも、本当に、いい大学→いい人生という因果関係は成り立つのだろうか。

 ただ学校の進学実績を稼ぐために貴重な時間を、お金を、努力を、費やすのが賢い生き方なのか。

 もっと他にすべきことはないのだろうか。


 そんな涼香ちゃんは将来、どのような道に進もうと考えているのだろうか。


 疑問が脳裏を掠めた。













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