尻切れトンボと薄い夏

前田 米路

第1話 初夏5月の青空

 ああ…。真っ白だ。

 と、窓から覗く白い初夏の空を見上げ呟く。

 初夏の空は白っぽく見える。そうテレビでやってたっけ。


 空が真っ白であることはとてもいいことであるが、私の机の上にある1枚の紙っぺらが真っ白なのはどうにかしてもらいたい。


 ――『進路希望調査票』である――


 文理選択、志望大学、将来の就きたい職業を記入するの欄がそれぞれあって、前述のとおりすべて未記入。もはや某フリマアプリなどで、『商品の状態 新品、未使用』と出品できそうなくらいである。


 だれかぁ。私の将来を貰ってくださいぃ~と大声で呼びかけたいが、人生そう甘くない。

 はぁ…どうしたものかなぁ~ともう何回になるか分からないため息をつく。

 自室だというのに、汲んでおいたコーラはもうすっかりぬるくなっている。


 温故知新という言葉があるが、1つのものにしっかりと打ち込んだ事がないわたしにとって、過去を遡っても得られるのは将来なりたい自分へのヒントではなく、恥ずかしい過去でしかない。

 でも、お母さんがせっかくお腹を痛めて生まれた身なんだ。今ここにある身を引きずって、生涯を全うまっとうすべきだと思う。

 だからその事実に目をつぶってはならぬ。


 好奇心の権化という言葉が私にはぴったりだろう。

 その言葉さえあれば私の人相の8割型は説明ついてしまう。


 小学校のころはゲームにハマり、よく友達と一緒にあそんだっけ。

 そして中学校に上がると、陸上部にはいって、部活が忙しくなり、ゲームする暇がなくなった。


 その部活もしっかり打ち込めたかというとそうでもない気がする。どっちかというとエンジョイ勢。


 中学2年生になると、ふらっと何気ない気持ちで観たラブコメアニメにハマって、アニメ、漫画、ラノベ辺りに没頭したなぁ。


 もうすぐ3年生というところで今度は絵を描くことにハマったけど、受験勉強の兼ね合いもあって、離れていっちゃて……。

 高校受験では無事第一志望の山厳高校へ合格。

 塾の偏差値的にも受かるとされていたけれど、それでも嬉しかったな。

 山厳高校は県内でも有数の進学校であり、高校1年生の夏前という早い段階で文理選択を強いられるのはそのためである。

 高校では軽音部でベースを弾いてて、軽音部に入ったのも、憧れのミュージシャンがいて!とか幼いころから音楽やってて……とかそんな大層な理由じゃなくて、なんか楽しそうって半ばノリみたいな感じだ。


 とにかくいろんなことをやってみた。

 よくいえば、人生経験豊富。

 わるくいえば、中途半端。


 私のいままでの人生がどちらに分類されるかは、しったこっちゃないが、一つだけ確かなことがある。


 ――好きなことをしているときってあっという間に時間が過ぎていっちゃう。


 自分の好きなことをしている時間が一番楽しいのは紛れもない事実であって。

 最高の仲間たちと最高に音色を奏でるのも、面白くないわけなくて。

 それを将来仕事できたら絶対楽しいってことも分かってる。


 けど、そんな未来のことを想像したら一気に現実味がなくなってく。

 自分の姿はそこに映るのだけど、顔の部分だけ黒のサインペンでぐちゃぐちゃ~って塗りつぶされている。そんな感覚。


 っていうか、来年のことさえ想像つかないのに私が社会にでて何をしているかなんて想像つくわけないじゃん。

 今、ちまたでよくニュースでも取り上げられている某感染症だって、発生が確認される1年前に誰が予想しただろうか。そんな不確定でふわふわとしたのことなんて、考えるだけ無意味ではないだろうか。


「あーーーっ!もうやめた!!しらんしらん!部活いこ。部活!」


 進路希望調査票を放り投げ、部活でつかうベースがはいったショルダーバック型のベースケースを背負い自室から出て行ってしまう私。


 ひらり、とベットに舞い降りた1枚の紙っぺらは私のと同様、真っ白のままだった。
























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