至高のプラン

シヨゥ

第1話

 夕暮れ時のセミの大合唱の中、ただひとりぼんやりと田んぼを眺めていた。

 ときどき山から吹き下ろされた風が稲穂を揺らし、まるで波のようだ。そんなこと思っていると目の前に海が広がった。


 カンカン照りの中、ただただ海を眺めている。頬を伝う汗を拭うこともせず、穏やかな波の音に包まれていた。波の音に集中するとどんどんと心が落ち着いていくのが分かる。そのせいか眠気がやってきて、どんどんまぶたが下がっていく。

 完全にまぶたを閉じると波音だけが世界に残された。それまで感じていた暑さは暖かさに変わりぼくを包み込む。ここで寿命を終えて母なる海に戻っていくのではないか。そんな不安にまぶたを開くと見知らぬ女性の腕の中にいた。


「あら起きちゃったの」

 ぼくは彼女の腕の中であやされていた。

「でもまだおやすみの時間。おねんねしましょうね」

 眠りを誘うように一定のリズムで揺れが繰り返される。それに加えて彼女の体温と心音が安心感を与えてくる。

「おやすみなさい。わたしの坊や」

 抗う余地もなく僕の意識は転げ落ちた。


 目を開くとそこは暗闇だった。

「おはようございます~。どうでした? 至高のリラクゼーションプランは?」

 そんな聞き覚えのある声が聞こえてくる。それとともに瞬時に記憶が蘇りだした。

「田舎の風景からの海。からの母の愛。最高じゃないですか?」

「最悪だ! ころころ場面が変わって、自分の役柄も変わる。そんなもん情緒不安定になるわ!」

 ぼくは古馴染みが始めようとしたサービスを体験していたのだ。

「そうですか? まだまだ改良の余地ありですね~」

 こんなサービスなら二つ返事で応じるんじゃなかったと心底後悔している。

 装置から出てみると彼はパソコンに向かって必死に何かを打ち込んでいた。

 他人のことより自分のこと。昔からそうだったな。なんて思いつつ声をかけず、ぼくは帰途につくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

至高のプラン シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る