第26話 介入

 ナリムトルでは、日を追うごとにデモが過激になっていた。

 その主な原因とは何か。

 すでに分かりきってることではあるが、共和国の政策の一つである文明促進プログラムが原因である。

 最初に技術だけを渡して、あとはその惑星文明にすべてを委ねる。一見すればこの方法は、ある程度技術が出来上がっている文明のレベルを後押しする形になるだろう。

 しかしその反面、従来の社会構造では太刀打ちできない事態に陥ることもある。それは法律の問題であったり、惑星固有のタブーであったり、はたまた宗教といった、幅広い層に広がるのだ。

 他の惑星でもそうであるが、こういった壁というのは何とかなったりするものである。実際、これまで文明促進プログラムを施した惑星は問題が発生しても、新たな秩序を構築して適応していくものだ。

 しかし中には、ナリムトルのように社会全体が崩壊するような状況に陥る惑星もある。ロクシン共和国の学者の中には、文明促進プログラムの効果を問題視する者もいた。

 しかし大抵は何とかなってしまうため、反対意見は黙殺されている傾向にある。

 だが、今回のように、大きな社会問題に発達してしまうと、それを収縮させるのに多大な労力を使う。その労力を使った分だけ、科学技術の発展は遅れることになる。

 しかも宗教要素が強い場合、そもそも技術の受け入れを拒むこともあり得るのだ。ナリムトルでは、そこまで宗教要素は強くなかったが、惑星における常識の中では異端とされる技術も何個かあった。それに対してデモが発生しているようなのだ。


「……現在、共和国では、このデモ活動に対しては従来通り、不干渉の立場を取ることで関係閣僚で一致しました。議会に対しては、今後真摯に説明をしていくことにしています」


 このように、共和国の報道官は、記者団に対して説明を行う。


「しかし、そのような態度では、デモ活動が活発になる一方なのではないですか?」


 記者の一人が疑問を投げかける。


「もちろん、いつまでも不干渉でいるというわけではありません。いずれかのタイミングで介入を行わなければいけないという認識はあります」

「そのタイミングが今ではないんですか?」

「政府の考えでは、今ではないという認識です」


 これには、記者団も大きくざわめく。

 すでにデモは暴動に近い形になっている。ここで介入しなければ、どこで介入するかという状況なのだ。


「そんな悠長なことをしている場合なのですか!?」

「今でも苦しみ続けている子供たちもいるんですよ!」

「弱者を見捨てるのは、文明国家としてあってはならないことでしょうが!」


 記者会見場は、一転して罵詈雑言が飛び交う。

 それを報道官は、黙って聞いているだけだった。

 ひとしきり騒いだことを確認した報道官は、記者団に対して次のように述べた。


「文明促進プログラムは、文明を発達させる方法として、最も有効的な方法です。ナリムトルの文明レベルを上げるには、我々が後ろから押してやらないといけません。そのためのプログラムです」


 そういって報道官は会見場を去っていく。

 その後ろ姿を、記者たちは質問の嵐で埋め尽くした。

 その会見の様子をテレビ中継で見ていたフクオカたち。


「なんていうか、見苦しい所もあった感じだな」

「文明促進プログラム……。なんだかんだ言って、成果あげてるし、政府も今更転換出来ないのかもね」

「なんというか、ナリムトルがかわいそうになってくるわ」


 そんな意見を言い合うフクオカたちであった。

 そんなことを言っている間にも、ナリムトルではデモ活動が続く。

 デモの内容は、宇宙技術開発反対から、次第にロクシン共和国からの独立に動いていた。

 文明促進プログラムでは、共和国の技術を与える代わりに、将来的には共和国の一部として成り立つように取引をする。

 しかし、これまで文明促進プログラムを施した文明のうち数個は、共和国の意向に反対して独立したりしている。

 しかし、使っている技術は共和国のものであるため、独立しても、すぐに共和国の一部になったりしているのだ。

 今回のナリムトルの場合でも、同じような結果になると予想されていた。一方的に独立を宣言し、社会が立ち行かなくなったら共和国に加盟するだろうというものだ。

 しかし、今回ばかりは事情が異なっているようだった。

 デモ隊の主張は、やがて惑星全体の行政に影響を及ぼし、そして形を成していく。

 ナリムトルのデモが激しくなってから、1年程が経ったある日。

 ナリムトルを取り巻く情勢が著しく変わってきた。

 現在、ナリムトルでデモを行っているのは、共和国の技術を受け入れて文明を推し進める科学技術推進派と、ナリムトルの文明を守るために共和国の技術を捨てる文明保守派と分かれることになった。

 そして、その流れは悪い方向へと進んでいく。

 なんと、科学技術推進派と文明保守派との間で紛争が始まったのだ。

 しかも使っている技術は、どちらも共和国が提供した技術だ。

 このままでは、収まりのない争いが発生してしまう。

 このことを危惧した共和国政府は、急遽会見を開くことに開くことにした。


「先ほど、関係閣僚と会議を開き、ナリムトルに対する干渉を行うことを決定しました」


 正直、共和国民は遅いと感じていることだろう。

 しかし遅かれ早かれ、この決定はされたのだろうから、問題はこれからである。

 どのようにして、この紛争を止めるかに焦点が当てられるのだ。

 そして首相は決断する。


「ナリムトルに軍を派遣する」


 この決定により、共和国は、ナリムトルに武力介入をすることを決定した。

 これが吉と出るか凶と出るか、まだ誰にも分からない。

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