第13話 幕間

 フクオカたちは、すぐさま演習室のサーバルームに向かう。


「失礼しまーす……」

「やっと来たか。こっちに来たまえ」


 そういって演習の先生が手招きする。

 二人は座っている演習の先生の前まで行き、直立不動の姿勢を取った。


「先生、話って何でしょうか?」

「君たちが、どうしてサーバをクラッシュさせるような作戦を思いついたのか聞きたくてな」

「……それが最善の策だと考えたからです」

「最善……ねぇ」


 そういって演習の先生は少し考えた後、椅子から立ち上がる。


「まぁ、この際だから、サーバがクラッシュした件についてはお咎めなしとしよう。実際、このサーバも20年近く使っている古い機種だからな。しかし、私が言いたいのは、何故、艦を突っ込ませるような真似をしたのか。それが聞きたい」


 一瞬、背筋がゾクリとする。

 そしてフクオカたちは察した。この先生は静かにキレていると。

 しかしそんな先生の威圧にも対して、艦隊指揮官役の候補生は物怖じせず、意見を主張する。


「艦を突撃させたのは、それが最大の攻撃力であるからです。艦そのものを弾丸としてしまえば、惑星要塞といえどもただでは済まないでしょう。その結果はサーバの状態を見てもらえれば分かると思います」

「確かにその言い分は合っている。単純に攻撃力だけを求めていくなら、そういった方法もあるのは間違いないからな」


 そういって先生は、二人の前を歩く。


「しかし、私が聞きたいのはそういうことではない」


 そういうと二人の前で歩みを止め、正対する。


「何故、人が乗っているかもしれない艦を突撃に使ったのかを聞きたいんだ」


 その言葉が、重くのしかかってくる。

 しかし、艦隊指揮官役の候補生は言葉を返す。


「確かに、人は乗っていたかもしれません。しかし、今回突撃に使った艦艇は、スウォームによって接続された無人艦艇です。最初から人が乗ってない艦艇を使用したため、人的被害はないと思います」

「なるほど。それは素晴らしい行動だ。だが、突撃に使用したのは軍が所有している艦艇だ。戦闘によって損傷したのなら仕方ないが、意図的に艦艇を破壊する行為は軍法に反する。人の所有物を破壊する行為は、誰が見たって違法なことだ。そこはどのように説明するつもりだね?」


 その疑問に、艦隊指揮官役の候補生は押し黙ってしまう。

 確かに、軍の所有物である艦艇を意図的に破壊する行為は、即軍法会議ものである。

 しかし、惑星要塞を破壊に追い込むには、これ以外の方法は見当たらないだろう。

 そう思ったフクオカは、思わず口走ってしまった。


「……戦場にルールはない」

「何?」

「戦場にルールはありません!いつでも最適な状況に落ち着くことはありえないでしょう!そうなれば、その時最も凶暴な案を出したものが勝つに決まっています!戦場というものは、最後の最後に立っていたものがつかみ取るものだと思います!」


 自分の思いを吐き出すように、叫ぶフクオカ。

 その迫力は、演習の先生を一瞬ビビらせる程だった。


「何をいう!君は軍の規約を読んだことがないのか!?軍の備品を意図的に破壊する行為は禁じられているのだ!」

「そんな規約を守っているばかりじゃ、本当に守りたいモノを守ることなんて出来ません!」

「くっ……!」


 演習の先生は、フクオカの言葉に、返す言葉を失った。

 確かに軍規は守るべきだ。

 しかし、時にはそれが足枷になることもあるだろう。

 それに反論しようとした演習の先生が、言葉を発しようとした時だった。


「そこまでにしないか?」


 サーバルームに誰かが入ってくる。

 フクオカは思わず振り返った。

 そこにいたのは、ドレイクの姿。


「ドレイク先生……、どうしてここに?」


 演習の先生はたじろいだ。


「今回の演習をアーカイブ室から見ていたのだ。そのおかげでなかなか面白いものが見れたがな」

「面白いものって……。実際アレが面白いというのですか?」

「面白かっただろう?候補生が惑星要塞の弱点を見出した上、それを確実なものにするために行動したのだ。そうじゃなかったら、何て呼べばいい?」

「しかしですね……、軍の所有物を勝手に破壊したんですよ?それなりに罰則は与えられて然るべきです」

「そんなことなら、俺は何度もやっている。実際それで戦果を上げてきた」

「貴方は例外です」

「そんな簡単に例外を作られちゃ、軍はたまったものじゃないな」


 そういって、フクオカたちの前に出る。


「フクオカの言う通りだ。戦場にルールなんてものはない。それに、戦場は最後まで立っていた奴が勝ちになる。戦争の本質を理解している候補生がいるなんて、そうそういないだろう」


 ドレイクがフクオカたちのことをかばっている。

 3対1の構図に、演習の先生はついに折れた。


「……分かりました。今回はドレイク先生に免じて、口頭による厳重注意とします。しかし、次回サーバをダウンさせるような行為を行った場合には、謹慎処分にする事も視野に入れる。いいかね?」


 そう演習の先生が言う。

 これにて、フクオカたちは解放されるのだった。


「ドレイク先生、わざわざありがとうございました」

「礼には及ばん。実際、面白いものを見れたからな」

「それって、アタシたちの作戦が良かったってことですか?」

「いや、サーバがクラッシュする所が見れたことだ」

「えぇっ!どうしてですかぁ!」

「……ドレイク先生とフクオカって、こんな仲良かったか?」


 艦隊指揮官役の候補生が疑問に思う。

 こうして、青チームの惑星要塞攻略は、サーバダウンという形で勝利できたのだった。

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