妹が私の婚約者と結婚しました。妹には感謝しないとね。

香木あかり

第1話

「シーラお姉様、パウル様と私は婚礼の誓いをささげ合いましたの。私たちは既に夫婦となったのです。パウル様は私のことを気に入ってくださったの」


「あら?聞き間違いかしら。パウルは私の婚約者だったはずだけれど」


私が妹のリアに問いかけると、リアは心底嬉しそに笑いました。私から物を奪った時の笑顔です。


「聞き間違いなんかではありませんわ。可哀想なお姉様、現実を受け入れてください。パウル様と私は結婚したのです」


どうやら冗談ではないようです。まあ伯爵家同士の結婚話ですから、家同士に利益があれば誰が結婚しても構わないのでしょうね。お父様もお母様もリアには甘いから、仕方ありませんね。


「そう……では私は身を引くしかないわね。リアならきっとパウルとうまくやっていけるでしょう。……パウルによろしくね」


俯いてそう呟くと、リアはますます嬉しそうに笑いました。


「もちろん伝えておくわ。泣かないで、お姉様。きっとお姉様にも良い方が現れるわ」


どうやら私が泣いているのだと思ったようです。笑っている口元を見られなくて良かったわ。ですが、もう笑いを堪えるのが限界ですから退散しましょう。




伯爵子息のパウルと婚約が決まったのは、ちょうど一年前のことでした。パウルとは歳も近く、伯爵家同士でしたから、断る理由もありませんでした。


平凡な結婚をして、平凡に暮らしていけるのだと思っていました。


ですが、彼の性格はかなり歪んでいたのです。


「シーラ、昨日はどこへ行っていたんだ?僕は何の連絡も受けていないぞ!」


「友人と買い物に行っただけですが……なぜ出かけたことをご存じなのですか?」


「君のことはなんだって知っている。今後はどこかへ行く前に僕に連絡して。僕たちはもうすぐ夫婦になるのだから」


友人と会うだけでこのような調子でした。パーティーで男性に挨拶しようものなら、数日間部屋に軟禁される始末。本当にうんざりでした。


誰かに相談しようとしましたが、パウルはかなり評判が良かったので止めました。誰も信じてくれないでしょうから。


私のことを本当に愛しているのならば、受け入れられたかもしれません。ですが、彼の行為は愛情というより、単に強い執着心によるものでした。


私はこのまま窮屈な人生を歩むのね……。そう諦めかけていました。


妹のリアがパウルに好意を寄せていると気づくまでは。




リアは小さい頃から甘やかされて育ったせいか、ものすごくわがままな性格をしていました。いつも人のものを欲しがっては、駄々をこねて手に入れる。彼女にとってはそれが快感なのでしょう。私も随分とたくさんのものを奪われました。


そんな彼女がパウルを狙っている……。天が私に味方したのだと思いました。


それからというもの、リアの前でパウルのことを褒め、パウルの前でリアのことを褒め続けました。


その成果がついに表れたのです!

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