星空ノ旅路

狐のお宮

第1話

 人間生活に疲れてしまった。同じことを繰り返した日々だった。

 非日常を求めていたはずの、心の浮き立ちすら薄れてしまった。


「さようなら」


 もしかしたら、これは非日常を詰め込んだ夢だったのかもしれない。僕にとっての非日常は、日常であったのだ。

 静かに、ふわり、宙を舞う。ちょうど夕日が差し込んだ。


 美しい空だった。陽の光が僕を柔らかく包み込んだ。


「ああ、愛しいお空にいだかれて。あなたは何処へ行くの?」


 夢でもなく、走馬灯でもない。全く知らない誰かの声が、あの夕日の真似事をした。

 声はすれど姿は見えず。気づけば僕は地面に立っていた。


「夕日と共に眠りにつき、夜星空と旅をして。朝日と共に目覚めるのね」


 目の前に少女がいた。しかし、顔は分からない。目を凝らしても、姿は霞のように見え隠れする。

 既視感を覚えた。夢だ。そこに誰かがいると分かっても、その人がどんな顔をしていたかは思い出せない。


「月の光を辿りなさい。そうして、目覚めと共に大きく息をするのよ」


 これは少し奇妙な、僕と少女の旅の話。



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