第4話 その異世界、夢がある


 この世界には魔法がある。

 転生して、唯一嬉しかったのは魔法を使えることだ。

 生活水準が16~17世紀くらいに感じる時代に転生して、なんの楽しみも無いと思っていただけに、魔法を知ったときは本当に嬉しかった。


 魔法を使えるようになるのが、大体3歳からということで、俺の転生もそれに合わせてくれたのだと思う。

 当然、使えるようになったからと言っても、最初はショボい魔法しか使えない。

 マッチのような炎を出したりとか、豆電球のような光を出したりとか、USBファンよりも劣る風を出したりとか、最初は本当にそんな程度。

 しかも、調子に乗って魔力を使い切ると、体調不良に見舞われる。

 当たり前のことだが、俺は何回も調子に乗った。

 周りには、学習能力のない馬鹿だとしか思われてないらしい。


 しかし、頑張って修行して魔力が他の人よりも多く且つ上手になると、将来大魔法使いになることも可能だそうだ。

 もっとも、一番魔法が伸びる時期が、6歳から7歳ころの1年間らしい。

 大体その頃に魔法を習得させるのが一般的とのこととか。

 ただ、魔法を使いすぎると体調不良に見舞われることから、自主的に練習する子供は少なく、強制的に練習させても、使うことを嫌がる子供が大半だとか。


 その頃が一番伸びる時期とはいえ、特に練習しなくても魔力量は増え、ある程度の魔法は使えることから、教会など治癒魔法の力が必要な、一部の職を目指す者を除いては、無理に練習させないそうだ。


 そんなゴールデンエイジ論は、俺には関係ない。

 とにかく俺にとっては魔法は面白いのだ。

 少々具合悪い程度、前世では良くあったこと。

 ……寝不足とか二日酔いとか……。

 俺にとって、小さい子と遊ぶよりも、魔法を使い過ぎて具合悪くなった方がマシだ。


 元の世界では、バイクに乗るのが一番の楽しみだったが、バイクがない異世界では、魔法が唯一の娯楽だ。


 バイクの練習は楽しかった。

 (遠い目)


 できないことを練習して、練習して、練習して、できるようになった時の達成感。

 その技術を使ってタイムを更新した時の嬉しさ。

 バイクと一体になった時の高揚感。

 練習のやり過ぎで疲れた時の、疲労感の中にある心地良さ。

 休憩時に飲むコーヒーの美味しさ。

 この世界の魔法は、俺にとって、前世のバイクに代わるものなのだ。



 魔法を使うに当たって、まず普段の生活で意識して使ってみた。

 物を運ぶとき、体を強化すると、重い物が運べる。

 魔力を体の外に出すよりは内側で使う方が効率は良いようだ。

 その効率を突き詰めて、なるべく少ない魔力を流して物を運ぶように練習する。

 無駄な魔力を体に流さず、効果的に使うように心がけた。

 つまり、どれだけ少ない魔力で、必要な効果を得るかということを常に意識し続けた。


 掃除をするとき、汚れが落としやすくなるように、少しだけ水を温めてみる。

 魔力を外部に放出すると途端に効率が落ちるが、そのロスを少しでも減らすことを心掛けた。

 それには集中力が必要になる。


 部屋の換気をするとき、渦を作って風を作り出す。

 作り出す渦の大きさや風の速度を変えてみる。


 そのほかにも、生活の中の細かいところで魔法を使ってみたり、細かく制御してみたりと頑張って使ってみた。

 最初は、すぐに魔力切れを起こしたが、段々と魔力が増えていく実感があり、体調不良と疲労感の中にも達成感があった。


 教会のシスター達も、俺の魔法に対する熱意に心打たれたのか、それとも自分が魔力を消費するのが嫌だったのか分からないが、魔法を使う場面では、積極的に俺を使ってくれた。

 俺もその意気に答えようと、倒れるまで魔法を使って、シスター達の役に立とうとした。

 倒れると、シスター達は俺を優しく寝かせてくれた。

 時々、看病だと言って、一緒のベッドで昼寝をするツワモノもいたが。

 まあ、サボるのは、ロビンという元貴族のシスターだけだったが。

 ロビンは13歳だが、一緒に寝ると、いい匂いがして、3歳ながら、なぜか悪いことをしている気持ちになった。 

 そうやって、俺は日に何度も倒れながら、ロビンと昼寝をし、魔法を練習していった。

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