ギャンブルRoute6×6異世界でバイクを乗り回せ
@FLHTCU
第1話 気が付いたらプロローグ
俺はギャンブルが嫌いだ。
なぜなら、ギャンブルで勝てるのは胴元だけだからだ。
例えばパチンコ。
パチンコ店は、立派な建物を作って、パチンコ台を用意して、きれいなお姉さん(一部例外)を雇って給料を払い、たくさんの電気を使って営業している。
そして、トータルでは客が必ず負けるように出来ている。
そして時々勝たせてやって、また負けさせて、生かさず殺さず上手に搾り取っている。
そんなことは、世の中全員知っていることなのだが、一度ギャンブルの味を覚えると、やめられなくなるらしい。
科学的には、パチンコをすると大量の脳内物質が溢れ出すかららしいが。
そして、その一人が、俺のオヤジなのだ。
ギャンブルをしない親の元に生まれていたら、俺はどれだけ幸せだったのだろう。
俺の家は、親父がギャンブルに費やすお金は捻出できても、俺を大学に行かせる金はなかったので、高卒で就職して、今に至っている。
そんな親を見ていたので就職先は公務員、更にバイクが好きだったので、警察官を選び、白バイに乗って仕事をしている。
白バイという時点で、一般的に見て普通かどうかは分からないが。
そんな俺でもたまにはギャンブルらしいことをやる。
何かと言えば、ジャンボ宝くじだ。
年間5回、一度に3000円一組を購入して、一喜一憂している。
一度買えば、ひと月近く楽しめるのだ。
なので、ギャンブルをやる人の気持ちは、少しだけ分かる。
1万円当たったときなんかは、同僚に自慢しまくった。
当然集(たか)られた。あぶく銭なので、惜しげもなく缶コーヒーを奢った。
一等なんて当たる訳ないと思っているが、夢は夢だ。
パチンコのように、一度大きく勝っても、1か月も生活できないギャンブルに夢はない。
年間1万5千円で、夢が買えるのだ。
パチンコなら、一瞬で消える金額だろう。
そんな俺だが、人生どうなるか分からないもので、なんと一等とその前後賞を当ててしまった。
朝刊で確認したら、当たっていたのだ。
何度も見直したが、間違いなく当たっていた。
もし当選したらどうする?という話はどこの職場でもすることだろう。
俺の場合、当選したら、仕事を辞めて、バイク三昧の日々を過ごすつもりだ、と言っていた。
実際当選してみると、よく分からない、ということが本音である。
ツーリング用のバイクと、レース用のバイクと、レース用のバイクを運ぶトランポを買って、バイクガレージを広くとった家を建てて、ちっちゃいバイク屋を開き、あまり客の来ない店で、コーヒーを飲みながらバイクをいじり、時々レース、たまにツーリングする。
レースはオンオフ両方。
ツーリングバイクは国産と外車と両方揃える。
そんなことを思っていたが、実感が沸かない。
仕事を辞めてもいいのか。
大金を持ったまま、お金を使わずに、一公務員として平凡な人生を歩んでいくか。
まあ、お金を手に入れるまでゆっくり考えよう。
今すべきことは、当選券をお金に換えること。
誰にも話さないこと。
そんなことを思いながら、体をいつも通りのルーティーンに置き、心は別として体だけは出勤させた。
頭の中身は全く出勤モードになっていない。
オートマチックに職場に到着。なんとか通勤時間で、おおよその方針は決まった。
とりあえず仕事を続ける。少なくともお金を手に入れるまでは。
普通の人間なら、当選時点で仕事を辞めるかもしれないが、根が真面目であり、親元にいるときは金に困っていた俺は、当選金を受け取るまでは、当選がばれないように、毎日きちんと出勤することにした。
そう決めた俺は、当選券を換金するために、平日の休暇を申請した。
なんとか銀行さんは、土日祝はお休みなのだ。
当然、休暇の理由については適当にごまかした。
流石の俺でも言える訳がない。
1万円くらいなら、缶コーヒーを奢るだけで周囲も笑って祝福してくれるのだが、当選が億になると、周囲の人間の行動が読めなくなる。
きれいなお姉さんにダマされそうになるくらいならまだマシで、過去のニュースでは、密かに殺されたり、殺されなくても毎日いろんな人からお金の無心が続くらしい。
俺が過去に当てた1万円でも、あれほど集(たか)られるのだ。
平穏な生活を維持するためにも、なるべく、できれば一生黙っておこうと思っていた。
俺の口が我慢できるかどうかは別として。
休暇を申請した後は、普段と変わりなく、白バイに乗って仕事をするつもりだった。
……が、
『今日は流し気味に過ごそう』
自分を客観的に見た場合、冷静さを保っていられる気がしない。
仕事を辞めることができるお金が手に入るのだ。
そこそこ好きな仕事を辞めて、もっと楽しい仕事をすることができるのだ。
そこそこ好きな白バイの仕事は、常に冷静沈着を求められる仕事だ。
何もなければいいのだが、何かあったら大変だ。
浮ついた気持で、大事件に出会ったらそれこそ大金が手に入る前に人生が終わってしまう。
『こんな時は、あそこだな』
俺は、久宝峠へ向かう。
昔はよくローリング族が出ていたという走り屋向きの峠だが、今ではあまり車通りのない山道だ。
お盆を過ぎたこの季節、時代遅れの走り屋たちも、全く姿を現さない。
仕事をした振りをしながらサボるには都合のいい場所だ。
ギアを上げながら、低回転でゆっくりと道路を確認する。
白バイは排気音を静かに出しながら、するすると加速していく。
勝手知ったる久宝峠ではあるが、警戒がてらゆっくり流す。
路面の状況、突然の工事、その他予想外のことがないか、丁寧に確認する。
追跡中の突発的な危険なら仕方ないといえるが、事前準備でどうにかなる危険は当然回避する。
確認結果、オールクリーン。
久宝峠に異常なし。
俺は道路脇に引っ込んで車が通過するのを待つ。
ぼぉーっと空を眺める。
雲がゆっくりと流れる。
車やバイクの音は全くしない。
白バイのエンジンも切っているので、聞こえるのは風と虫の音だけ。
時折鳥の声が聞こえる。
『こんな時クマが出てきたら面白いのにな』
あまりにも暇でくだらないことを考えてしまう。
こんなくだらないことを考える暇があるのなら、別のエリアに行けばいいのに、と思う心もあるのだが、今日は平常心でいられる気がしない。
今日一番危険なドライバー(ライダー)は、間違いなく俺だろう。
サボりと言われても、今日はゆっくりと過ごす。
それが一番の事故防止だ。
幸い俺がサボっていることを知るものなど、俺のほかにこの世にはいない。
風の音と虫の声を聞きながら、何もない時間を過ごしていた時、急に周囲の空気が変わったような気がした。
『あれ』
周囲を見回すが、何も変わったものは見えない。
しかし何かを感じる。
『何だろう』
何も変わらない周囲の状況に、疑問を持つと同時に、単なる勘違いだと自分を簡単に納得させようとする。
再び車やバイクの接近がないか耳を澄ませる。
何も音は聞こえない。
が、何か近づいてくるような感じがある。
更に耳を澄ませるが、明確な音は聞こえない。
風による草の音のせいだろうか。
『まっ、何か来れば分かるか』
楽観的に考える。
しかし心臓の鼓動は少しだけ早まっている。
元々無事故(サボリ)のために来たのだ。
ゆっくりと自然を楽しもう。
もう少し落ち着け。
自分に言い聞かせる。
ドッドッドッドッド。
タンタンタンタンタン。
聞こえてきた。
明らかに聞こえる。
車の音ではない。
アスファルトを蹴る音が二種類。
音のする方向を向く。
白いウサギがアスファルト路面を軽快に走って近づいてくる。
その15メートルほど後方を白いクマが追走している。
『何事だ』
目の前を通過する二匹を目で追いながら、白バイのセルスターターを回す。
キュルキュル、ブォン。
現実についていけないものの、体が勝手に反応する。
何が起こっているのか分からないが、この二匹を見なければならない気がする。
ウサギとクマが一緒に走っているのは明らかだが、クマがウサギを捕まえようとしている雰囲気ではない。
道路に出た時には既に50メートル以上離れていた。
シフトアップしながら二匹を追う。
体が勝手に反応しているせいか、一応赤色灯は点いている。
『意外と速いな』
あまり近づかないように時速100キロメートル程度に抑えているが、前方の二匹との差は思ったよりも縮まらない。
『何キロ出てるんだよ』
二匹を追跡しながら野生動物の運動能力に驚く。
ただの野生動物でないことはなんとなく感じる。
そもそも白いクマなんて、日本にいると聞いたことがない。
ウサギも見たことがないくらい大きい。
俺は丁寧にコーナーをクリアしながら前方の二匹の後方を追尾する。
二匹とも俺に気づいた様子はない。
クマも、ウサギを追い掛けているというよりは、ウサギの前のゴールを目指しているような挙動(はしり)をしている。
そんな二匹を追跡していると、先程流した時にはなかったはずの鳥居が頂上付近に見える。
しかも白い鳥居だ。
「何だあれ」
俺の口から言葉が漏れる。
鳥居を認識できない訳じゃない。
こんな普通の道路になんで鳥居が存在するのか、という意味である。
鳥居が見えてから、二匹のスピードが上がった。
この二匹が目指しているのはあの白い鳥居に違いない。
俺もつられてアクセルを開けた。
クマが死力を振り絞ったのか、泡を飛ばしながらもウサギに追いついた。
ウサギも頭を振りながら必死に走っている。
そんな二匹は、鳥居まであと50メートルくらいに迫った。
俺は、必死な二匹に中(あ)てられたのか、自分も競争をしている気になっていた。
鳥居を目指して、30メートル・20メートル・10メートル。
俺は自然とアクセルを全開にしていた。
脇に並んだ二匹を横目で見ながら、俺はそいつらよりも先に鳥居に入った。
「ゴール!」
大きな独り言で一着を喜ぶ。
アクセルを戻すと野生動物に襲われそうな気がして戻せない。
アクセルを開けたままミラーをのぞく。
俺をにらみつけている獣(けだもの)が二匹映っていた。
今度は明らかに俺を狙っている。
『やばいかも』
俺は久宝峠を離れようと思った。
しかし時既に遅かったらしい。
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