35話。魔王城の攻防戦

「……これで良しと」


 私はダメージ床を城門前に設置し、ゴブリンたちに頼んで土を被せてもらった。

 見た目からでは、まず罠が仕掛けられているとは思えない。


「みんな、ありがとう。食事を用意しているから、休んでくださいね」


「やったぁー、ゴブ!」


 私が労うとゴブリンたちは手を叩いて喜ぶ。


「伝令! 馬上より失礼いたします。ヴィクトル様が傭兵団の撃退に成功したよしにございます!」


 馬に跨ったアンデッドナイトがやって来て報告してくれた。


「さらに迷いの森に入り込んだヴェルトハイム聖騎士団に、我らアンデッド部隊が散発的な攻撃を仕掛けております。奴らは満足に休息が取れず、疲弊しつつあります」


「ご苦労さまです。あなたも下がって休んでください」


「お心遣いありがとうございます。しかし、我はアンデッドである故に休息は不要でございます。失礼つかまつります!」


 アンデッドナイトは馬に鞭を入れて、すぐさま去っていく。


「アルフィン様! 作戦は成功です。聖騎士団が徴発した食糧に、遅効性のしびれ薬を混ぜることに成功しました!」


 ホワイトウルフのシロに乗ったティファがやって来て、嬉々として叫んだ。


「さらに聖女シルヴィアに下剤入り高級ワインを送って、大恥をかかせてやりましたよ」


「………大恥?」


「ふふふっ、彼女を挑発する材料を手に入れたということです」


 ティファは意味有りげに笑って、城門をを潜った。



 次の日の朝、魔王城の前にきらびやかな鎧をまとった聖騎士たちが姿を現した。

 本来なら、威風堂々とした屈強な軍勢だったのだろうけれど……

 昨夜もゴーストたちに一晩中襲撃され、睡眠を取れなかった彼らは、明らかにやつれきっていた。


「……お、お疲れ様です、皆さん……帰って休まれた方が良いのでは?」


 城壁の上に立った私は、音声拡大魔法で、聖騎士団に聞こえるように声を届ける。


「うん、良い感じの挑発だな」


 ランギルスお父様が頷くが、私に挑発の意図はなかった。できれば、彼らには負けを認めて帰ってもらいたかった。


「あの。このまま戦えば、皆さんに甚大な被害が出る可能性があります……」


 私たちは英気を養い、作戦を緻密に立てて、準備万端で待ち構えていた。聖騎士団には、残念だけど勝ち目は無いと思う。


「その声はアルフィンお嬢様!? やはりお嬢様が魔王の娘という噂は、本当だったのか?」


 聖騎士団から、動揺のざわめきが上がった。

 私が魔王の娘だったことを隠蔽したいロイドお父様は、事ここに至ってもちゃんと説明してなかったらしい。


「アルフィンお姉様! よくも、よくもやってくれましたわね! この魔女が! この聖女シルヴィアが、八つ裂きにしてやりますわ!」


 シルヴィアから大音声が返ってくる。かなり興奮しているようだった。


「ふん! あのような汚物にまみれて、聖女であるなどと、良く言えたモノですね! あなたが粗相をした話、全世界にばら撒いてやるから、覚悟しなさい!」


 私の護衛役のティファが、シルヴィアを挑発した。

 敵軍、特にシルヴィアを怒らせて、全軍突撃してもらうのが、こちらの作戦だった。


「かかって来やがれ、クソ聖女様!」


 城壁に陣取ったゴブリンやオークたちが、一斉にはやし立てる。


「な、な、なっ……!」


 シルヴィアは凄まじく動揺した様子で、呂律が回らなくなった。


「殺す! 今すぐ、殺してやりますわ! その口を永久に封じてやるわ、邪悪な魔族ども!」


「待てシルヴィア! 敵の挑発に乗ってはいかん!」


 ロイドお父様がシルヴィアを制止しようとしたが、彼女は聞く耳を持たなかった。


「うるさい! 総大将は私ですのよ! 全軍突撃!」


「「おおっ!」」


 騎乗した聖騎士団が槍を構えて、一斉に突っ込んで来た。

馬と人のパワーとスピードを、槍の穂先の一点に集中させる騎兵最大の攻撃。ランスチャージを仕掛けてくるつもりだ。


本来なら、城門を破る程の破壊力にはならないが、神聖魔法で肉体強化された聖騎士の一撃は、それを成し得る。


「さぁ、城門を一気に突破しますのよ!」


 シルヴィアが激を飛ばす。

 だけど、聖騎士たちは睡眠もまともに取れず、遅効性のしびれ薬がようやく効果を発揮し出していた。何名かは馬上で、体勢を維持するのも大変そうで、よろめいている。

 そして、極めつけは……


「うああああっ!?」


 城門前に敷き詰められたダメージ床だ。

 それは馬に雷撃ダメージを与えて感電させ、騎士たちは一斉に落馬する。

 彼らは後続の仲間に踏まれて、悲鳴を上げた。


「ショクカノン、発射!」


 そこを城門前を狙えるように設置したショックカノンが狙撃した。

 この兵器は電撃を発して、敵を失神させるモノだった。敵を殺傷するのではなく、捕虜にするための兵器だ。


「おおっ、これでもう城門を破ることはできないな!」


 ランギルスお父様が喝采を上げる。

 城門前には失神した聖騎士たちが折り重なっていた。


 後続の聖騎士たちは、味方を踏み潰すことを恐れて突撃ができない。無理に突撃しても、倒れた仲間が障害物となって突撃の勢いを殺されてしまう。


「ま、まさか……世界最強の勇者の聖騎士団が!?」


 シルヴィアが一瞬にして瓦解した軍勢を見て、声を震わせた。


 城壁に陣取ったゴブリンやオークたちが、弓や投槍で聖騎士たちを狙い撃つ。聖騎士たちは、盾を構えて防戦一方となった。


「ロイドお父様! すでに勝負は付きました。降伏してください!」


 私は城壁の上から、大声で降伏を勧告した。

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