33話。作戦会議
私たちは、魔王城の作戦会議室に集まった。
私とランギルスお父様、ヴィクトル、ティファが円卓を囲む。
ヴィクトルによると、聖女シルヴィアに率いられた軍勢が、あと6日ほどで魔王城に到着するらしい。
早急に対策を立てねばならなかった。
「ヴェルトハイム聖騎士団は全員、騎乗しているため、行軍速度はかなり早いですな」
「歓迎の用意は、間に合いそうか?」
「抜かりありません。それと、マケドニア王国を根城とするいくつかの傭兵団に動きがあります。金で連中を雇って、この森で合流するつもりなのでしょう。
最終的な敵兵力は1万ほどになるかと……」
ヴィクトルは手下のゴーストを使って調べた情報を語る。
すでに敵の動きは、かなり把握できているみたいだ。すごい。
「城攻めで1万の兵力は少ないと言えるが、敵軍は聖女と勇者に率いられた世界最強の騎士団だ。例のエンジェル・ダストもある。油断はまったくできん」
「対策として、傭兵団は合流前に各個撃破してしまうのがよろしいかと。敵の数を事前に極力減らします」
「………それは良いですね。ヴィクトル、頼めますか? なるべく犠牲者は出さないでもらえると、うれしいです」
事ここに至っては戦うしかないけど。死人はなるべく出さずに収めたかった。
「なるべく犠牲者を出さない……難しいオーダーですが、承りました。では、少々強引ですが、各傭兵団のリーダーには、どこか遠くにご退場いただきましょう」
「遠くにご退場……?」
私は意味がわからずに首を捻る。
「夜襲を仕掛けて傭兵団のリーダーを捕ら、足の早い魔獣にくくりつけて、どこか遠くに運んでしまうのです。
リーダーを取り戻そうと、傭兵団は追ってくるでしょう。それで合流は阻止できます」
「そ、そんなことができるのですか……?」
「この迷いの森は、我がテリトリーです。霧に紛れ、気づかれずに近づくなお手物です。お任せください」
ヴィクトルは自信ありげに腰を折った。
「それと聖騎士団は城塞都市ゼルビアに駐留するハズです。夜になったら、ゴーストどもをけしかけます」
ゼルビアに放ったゴーストたちは、城に帰還させていなかった。
ヴィクトルが諜報活動に使えるからと、そのままにしていた。
「ゴーストは低位のアンデッドです。簡単に撃退されてしまうのでは?」
私の疑問にランギルスお父様が答える。
「いや、これは奴らを疲労させる作戦だ。どんな屈強な人間でも、夜、満足に睡眠を取ることができなければ体調を崩すからな」
「左様でございます。【邪神の祭壇】によって、こちらはいくらでもアンデッドモンスターを生み出せます。
アンデッドの正しい運用方法とは、夜襲によって人間を恐怖に陥れることです。人は本能的に、死を予感させるアンデッドを恐れますからな」
確かにゴーストが夜な夜なやってきたら、おちおち寝ていられないだろう。
想像するとゾッとする。
つまり、負けても良いから睡眠を妨害するのがこの作戦の肝ということね。
「では、聖騎士団が迷いの森に入ってからも、ゴーストによる夜襲を続けるのですね?」
「はい。昼間も手勢のアンデッドによる攻撃を散発的に仕掛けて、奴らに休息を与えないようにします。
アルフィンお嬢様は、【邪神の祭壇】にて、次々にアンデッドを生み出していただければと」
決戦前に敵の数を減らし、敵軍をなるべく弱体化させる。兵法に疎い私にも有効性の理解できる作戦だった。
「わかりました! 新たに魔王城の兵器、ダメージ床とショックカノンも作れるようになったので、これも設置しますね」
「それは頼もしいな。ダメージ床は、魔王城の伝統的な兵器だ」
ランギルスお父様が満足そうに頷く。
「私からも提案がございます。聖騎士団は、おそらくゼルビアで、食糧を調達すると思います。その中にしびれ薬を混ぜたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
それまで黙って考え込んでいたティファが告げた。
「私ひとりでは難しいかも知れませんが。冒険者狩り事件によって身内や仲間を殺され、ヴェルトハイム聖騎士団に強い恨みを持つ冒険者が数多くいます。
毒性の弱いしびれ薬や下剤などを混ぜて、ほんの少しの意趣返しをしようと、彼らに声をかけてみようかと考えています」
「なるほど、やってみる価値はあるんじゃないか?」
ランギルスお父様が賛同する。
「敵の睡眠と食事を奪う。うまくすれば、聖騎士団を大幅に弱体化させられますな」
「ちょっと悪いような気もしますが……」
ヴェルトハイム聖騎士団には顔見知りも多いため、彼らに毒を盛ったりするのは、若干の抵抗があった。
「お嬢様。恨みの種を撒いたのは、奴らの自業自得でございます。これを利用しない手はないかと」
「これは戦争だからな、勝つためにあらゆる手を打つべきだ。奴らは魔族に対して無慈悲だ。負けたらお前はおろか、この城に住まう者たちは全員、殺される」
ランギルスお父様が強い口調で断言する。
確かにその通りだわ。大切なみんなを死なせる訳にはいかない。魔王城は私の帰る家で、ここに住む者たちは、みんな仲間であり家族なんだ。
「す、すみません。まだ、覚悟が足りていませんでした。何としても勝たなくては……」
「優しいところが、アルフィンの長所だかならな。だが、前にも言ったが戦争を防ぐには抑止力として、武威を示す必要がある。
聖騎士団を徹底的に叩いて、俺たちに手を出す愚かしさを人間たちに教え込んでやろう」
「まさにその通りでございます。中途半端な攻撃など、むしろ逆効果。そうですな、最終的には聖女シルヴィアを捕らえて、この城で監禁しましょう。
聖王国も聖女が人質にとなれば、おいそれとは軍を派遣して来ないでしょう。これが平和への何よりの道です」
ヴィクトルが皮肉げな笑みで、ランギルスお父様に賛同する。
今回の敵軍の総大将となっているのは、勇者のロイドお父様ではなく、聖女シルヴィアだった。なら、彼女を捕らえれば敵軍は撤退するだろう。
「大丈夫です。アルフィン様、私たちが力を合わせれば絶対に勝てます。みんなで魔王城を守り抜きましょう!」
「ありがとうティファ……では、解散して行動に移りましょう」
「はっ!」
一分一秒がおしい。私はまずは新兵器の設置から始めることにした。
ダメージ床の設置場所として最適なのは、多分、あそこね。
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