2話。本当の父親に命を助けられる
「なんだ、このホワイトウルフは!?」
「お父様、お姉様が手懐けていた魔物ですわ! 聖なるヴェルトハイムの娘ともあろう者が、魔物を友達だなどと呼んでらしたのよ!」
驚くお父様に対して、シルヴィアが嬉々として解説する。
私は思わず声を張り上げた。
「お父様! お母様は魔物とも手を取り合えるのが本物の聖女だと……っ!」
「そうか。良くわかった。お前の母は……ミリアは、この俺をとことん愚弄するつもりだったのだな! お前も、そんなデタラメを真に受けおって! 薄汚い魔王の娘が!」
お父様の身体を聖なる輝きが包む。
【勇者】のスキルを持つ者だけが使える【聖闘気(せいとうき)】だ。身体能力を何倍にも高める効果がある。
「殺してやる……っ! ヴェルトハイムの面汚しめ!」
お父様は剣を抜き放って、殺意に濁った目で私に突進してきた。私は目の前の現実が受け入れられず、棒立ちになってしまう。
ホワイトウルフのシロが、私を庇って前に出た。
「ガゥ!(やらせない!)」
だけど、負傷したシロの足取りは明らかに弱々しい。このままでは、シロが斬り殺されてしまうわ。
なんとか、なんとかしないと……っ!
『魔王城ヴァナルガンドの兵器を召喚できます。
現在、以下の3つが召喚可能です。
〈魔王の城壁〉
〈煉獄砲〉
〈王城の守護精霊〉
選択してください』
私の頭の中に響く声。これはスキルの使い方を解説してくれるという世界の声──システムボイスだ。
私はとっさに叫んだ。
「ぜ、全部っ、召喚! シロを守って……っ!」
ドン! と大きな音を立てて床が割れ、巨大な壁が迫り上がってきた。
「なにっ……!?」
壁に阻まれて見えないけど、お父様は壁に激突して弾き返されたようだった。
もしかして、これが〈魔王の城壁〉?
さらに私の横に、大砲のようなモノが出現する。
『エネルギー充填完了! 〈煉獄砲〉、発射しますか?』
「……えっ? だ、だめです」
何か薄ら寒いモノを感じて、私は攻撃を中止した。
次の瞬間、お父様が壁を剣でぶち破って姿を見せる。
「この壁はアルフィン……お前が召喚したのか? これ程、堅固な壁を?」
「お父様、何を呆けていらっしゃいますの!? お姉様は魔王の血筋、一刻も早く首をはねてください!」
シルヴィアが癇癪を起こしたようにわめく。
「私が引導を渡してやりますわ! 天使召喚!」
シルヴィアの目前で光が弾けた。光の中からプレートアーマーに身を包んだ騎士が出現する。その背には輝く翼が生えていた。
【聖女】とは天使を召喚して使役することができるスキルだ。
やはりシルヴィアは聖女なのだと、私は痛感する。
「アハハハハッ! スゴイ! これが聖女の力ですわ! さあ天使よ。あの薄汚い魔女を串刺しにしてしまいなさい!」
シルヴィアが命じると、天使は手にした槍を構えて襲いかかってきた。
「そうはさせん!」
「えっ……?」
突如、響いた謎の声に、その場の全員が面食らった。
直後、天使が凄まじい勢いで床に叩きつけられらた。床が爆ぜ、地面がクレーター状に陥没する。
天使の身体が崩れ、光り輝く無数の粒子となって消え失せた。
「あ、あなたは……っ?」
私は思わず、息を飲んだ。
天使を殴りつけたのは、美しい銀髪に凄みのある整った顔立ち。真紅のマントをまとった威風堂々たる青年だった。
一目でただ者でないことがわかった。
「なっ!? バカな……お、お前は!?」
お父様が青白い顔となって、あとずさる。
「俺は魔王ランギルス。アルフィン、お前の本当の父親だ!」
「ええ……っ!?」
私は頭が真っ白になった。
い、一体、何を……?
「驚かせてしまってすまない。俺は死んだが、お前の母ミリアの手によって精霊へと転生したんだ。おかげで、この世にとどまることができた」
魔王ランギルスと名乗った彼は、私に向き直った。
「だが、精霊は誕生した土地に縛られる性質があるため、俺は魔王城から動けなくなってしまったんだ。
今まで迎え来れなくて、本当にすまない!」
「……えっ、あの。ほ、本当に私の実のお父様なのですか……? ま、魔王?」
私はショックが重なって、うまく言葉が出てこない。
それに父だと名乗ったその人の顔は、あまりに整っていた。地味な容姿の私とは、似ても似つかない魔性の美貌だ。
「混乱するのも無理もない。だけど、誓わせてくれ! アルフィン、今度こそお前を守り抜くと! 安心しろ。もうこれ以上、俺の大事な娘を泣かせたりはしない……!」
「まさか聖女であったミリアが、魔王を復活させていたとは……なんという裏切りか」
お父様は魔王ランギルスを憎々しげに睨みつけた。
「それは違うな。ミリアは魔族と人間との和睦を望んでいた。俺もそれに賛同した!」
衝撃的な言葉だった。
お母様は魔族と人間の架け橋となっていたらしい。
「だが、ロイド。お前と時の聖王が、それを利用し、俺を騙し討ちにしたのではないか? 俺はミリアとお腹の子を人質に取られて、お前に敗北した」
魔王ランギルスは、激しい口調で断罪する。
「ミリアを。俺の愛する妻を侮辱することは許さん!」
「そうか。あの時、すでにミリアはお前の子を身ごもっていたのか!?」
お父様は悔しそうに歯ぎしりした。
「そうだ。アルフィンは本来なら、魔族と人間の平和の象徴として、生まれてくるハズだったんだ」
「平和の象徴だと……? バカバカしい! 平和とは、どちかがどちらかを滅ぼすことでしか、実現せぬわ!」
「アルフィン! 俺とミリアは心から愛し合って、お前を授かったんだ! だが、力及ばず俺はミリアとお前を守れなかった……」
魔王ランギルスは、口惜しそうに唇を噛んだ。
「今まで父親らしいことは何一つしてやれなくて、すまない。これからは全力でお前を守り抜く! 俺に父としての責任を果たさせて欲しい!」
魔王は私の目を真っ直ぐ見て、そう宣言した。
何ひとつ嘘はついていない感じがして、心が激しく揺さぶられた。
「お父様! 今ここで、このふたりを始末しなければ、お父様の名声は地に堕ちますわ!」
シルヴィアがロイドお父様を叱咤しながら、さらに天使を召喚する。翼を生やした騎士たちが次々に出現した。
そのどれもが、尋常ならざる力を秘めているのがわかる。
「そ、その通りだ! シルヴィア、援護しろ! 魔王ランギルス、勇者と聖女の力を思い知るがいい!」
ロイドお父様が剣を、ランギルスお父様に叩きつけた。
ランギルスお父様も剣を握り、ふたりの間に剣撃の火花が散る。
そこにシルヴィアが召喚した天使が殺到した。
ま、まだ事態がよく飲み込めていないけど……
私もランギルスお父様を援護しなくては。少なくとも、彼は私を助けてくれた。
「……煉獄砲、発射してくださいっ!」
『了解!』
隣の大砲が、耳をつんざく轟音と共に火を吹いた。
ドゴォオオオオン!
炎の本流が放たれ、天使たちを飲み込んで消し炭にする。屋敷の天井と壁も吹き飛ばされて青空が見えた。
こ、これは予想以上の威力だわ。
下手に使うと関係ない人まで巻き込んでしまうかも知れない。
「助かったぞアルフィン!」
ランギルスお父様が剣を押し返す。ロイドお父様は、力負けして後退した。
「天使たちが一撃で消滅しただと!?」
「あ、有り得ませんわ。なんですの、あの大砲は……!?」
シルヴィアが信じられないといった面持ちで、身を震わせた。
『魔王城の兵器で、天使を滅ぼしました!【魔王城クリエイト】Lv1の進化条件を満たしました。
《神聖魔法、使用不可》が《神聖魔法が闇属性になる》に進化しました。』
―――――――
【魔王城クリエイト】
Lv1⇒神聖魔法が闇属性になる(UP!)
Lv2⇒魔王城の兵器召喚
Lv3⇒????
―――――――
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