3話。私だけが使える史上最強の闇魔法
神聖魔法が闇属性になる? よくわからないけれど、ステータスのスキル効果から『神聖魔法、使用不可』が消えた。
これなら、また魔法が使えるようになって、シロの火傷を治せるかも知れない。
「【回復(ヒール)】!」
私はシロの身体に触れて、回復魔法を発動させる。
放たれたのは見慣れた神聖な輝きではなく、禍々しい闇の波動だった。思わず、ギョッとしてしまう。
だけど、その効果は劇的だった。焼けただれたシロの身体は、時間を巻き戻したように元通りになった。
「わんっ!(痛みが消えた! アルフィン、ありがとう!)」
シロが嬉しそうに吠えた。
「ええっ……! 良かったわね、シロっ」
私はシロのモフモフの身体に抱きついて、頬ずりした。
回復魔法が、また使えるようになって本当に良かった。
もう少しで大事な友達が死んでしまうところだった。私は神様に感謝の祈りを捧げる。
「まさか、そんな……お姉様は神聖魔法が使えなくなったハズでは!? な、なぜ、こんなあり得ないレベルの回復魔法が使えるますの!?」
「し、信じられん! ミリアですら、ここまでの回復魔法は使えなかったぞ?」
ロイドお父様とシルヴィアが目を見張る。
うれしさのあまり思考が飛んでいたけれど、確かにおかしい。
本来の私の実力なら、シロの怪我の回復にはもっと時間がかかったハズだけど……
「こ、これはまさか……【闇回復(ダークヒール)】か!?」
ランギルスお父様が驚きの声を上げた。
「ランギルスお父様、な、なんですか? それは……っ?」
「お、俺を父と呼んでくれるのか、アルフィン!?」
彼は限りない喜びに満ちた顔を見せた。
「【闇回復(ダークヒール)】とは、傷を無かったことにしてしまう究極の闇魔法だ」
「……究極の闇魔法?」
そんなモノを習得した記憶も使ったつもりもないので、戸惑ってしまう。
邪神の力を借りて行う闇魔法は、神聖魔法の対極にあるモノだ。
「高位魔族は超越的な生命力を持つ代わりに、神聖な力である回復魔法でダメージを受けてしまう。だが【闇回復(ダークヒール)】なら、そんなことはない。
この魔法を身につけた者は、魔族の欠点を克服した不死身に近い存在となり、代々、魔王に選ばれてきたんだ」
「えっ……?」
私は自分自身にも【回復(ヒール)】を使ってみる。
邪悪な黒い波動が全身を包んで、傷の痛みが嘘のように消え去った。
な、何かものすごい違和感があるけれど、効果は抜群だった。
しかし、それよりも気になることがあった。
「……代々、魔王に選ばれるとは……?」
「ああっ、誇り高いホワイトウルフにここまで懐かれるお前は、立派な魔王になれる! ……も、もしかして嫌なのか?」
ランギルスお父様は、顔を曇らせた。
「ま、魔王というのは、世界を恐怖と混沌に陥れる者なのでは? わ、私はそういうのは……っ」
私は急に恐ろしくなって、後に下がった。
目の前にいる人は、魔族の頂点に立つ存在だった。
それに私は王などという器ではない。
人前に出るなど大の苦手だ。エルトシャン殿下の誕生パーティーでスピーチを頼まれた時などは、緊張のあまり倒れかけた。
「大丈夫だ。魔王にとってもっとも重要なのは、魔族や魔物たちを慈しんで繁栄に導くことだ。人間との戦は、そのための手段でしかない。
俺はミリアと手を結んで、人間たちと和睦することで、これを成そうとした。
魔王だからと、殺戮の限りを尽くす必要はない。お前は、お前の理想とする魔王を目指せば良いんだ!」
「そ、そうなのですか……っ?」
私は目を瞬いた。私が学んできた魔王像とは、だいぶ実情が違うようだった。
「それにもし、どうしても魔王になるのが嫌なら、俺はアルフィンの意思を尊重する。お前が嫌がることを決して強要したりはしない」
私はホッとした。いきなり魔王に選ばれるとか言われて仰天したけれど、それなら安心だわ。
「だから、俺に付いてきてくれないか? これから親子として、一緒に暮らそう! もちろん、シロも共にだ」
「ワン!(アルフィン、ぜひそうしようよ!)」
シロもランギルスお父様に賛同するかのように尻尾を振った。
「……わかりました。私はランギルスお父様について行きますっ!」
もうヴェルトハイム侯爵家にも、聖王国にも居られない。
なによりランギルスお父様に助けてもらえなかったら、私はもうこの世にいなかった。
そのランギルスお父様が私と暮らしたいとおっしゃるなら、それに応えたい。
私は新たな道に踏み出すことを決心した。
「な、ならんぞアルフィン! 仮にも俺の娘が魔王になるつもりなのか!? 貴様はこの俺を破滅させる気か!?」
「くぅううう! お父様、何としてもお姉様をここで亡き者にするのです! 私とエルトシャン殿下との婚約にケチがついたら、たまったモノではありませんわ!」
ロイドお父様とシルヴィアが憤りの声を上げた。
私がもし魔王になどなったら、ヴェルトハイム侯爵家の面目は丸潰れだろう。ロイドお父様は魔王を育てた者ということになってしまう。
「どこまでも自分のことしか考えていないんだな、お前たちは……! この俺の娘をお前たちの好きにさせるものか!」
ランギルスお父様が、私を庇うかのように前に出た。その背中は力強く頼もしかった。
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