第15話

 国を大きく……確かにそれは国王として当然事だろう。

 だからと言って魔物たちをないがしろにして言い訳がない。

 でも……この国の人間のほとんどは魔物を害のある敵として見ている。

 国王が魔物を蹂躙(じゅうりん)しろと言ったとしても、気にする人間はそうそう居ないだろう。

 この考えを覆すことが出来なければ、魔物達に平和は訪れない。

 またしても戦争になってしまう。

 

「流石は国王陛下」


「常に先を見ておられるのですなぁ」


「それでは軍の手配を急ぎましょう。勇者様が戦闘に立たれれば士気も増すでしょう!」


 俺を放って話しは上級貴族達の間で盛り上がっていた。

 勝手な事を言ってくれる。

 俺はもう決めたんだ……魔物も……そして人間も俺は切らない。

 絶対に。

 

「人間が住む領土を広げれば、うるさい亜人共も静かになるだろうて」


「奴らは厄介ですからねぇ、エルフなど無駄に長寿ですし、ドワーフはなんとも異臭が酷くて」


 あぁ……なんだろうか、この不快な空間は……。

 こいつらは本当に同じ人間なのだろうか?

 亜人も魔物も同じく知能を持ち生活をする俺たち人間となんら変わりない生命だという事が分からないのだろうか?

 違うのは見た目だけ。

 どの種族も毎日を必死に生きている。

 こいつらは人間こそが最上の存在だと思っているのだろう。

 なんだろうか、これ以上ここに居たくなくなってしまった。

 それどころか怒りが込みあがってくる。

 偉い偉い子の方々は実際に魔物や亜人と合って話をした事があるのだろうか?


「陛下、それでは貴方は……人間以外は皆殺し、あるいは奴隷として国の為に使い捨てるべきだとおっしゃるのですか?」


「何をそんな当たり前の事を? 勇者を魔王討伐に向かわせたのもそのためではないか? 魔物たちを蹂躙するのに魔王という存在は邪魔だったからな」


「………」


 俺はずっと魔王を倒せば世界が平和になると思って戦ってきた。

 争いで人が死ぬことは無くなり、疫病に苦しむこともない。

 魔物が人間を襲うことも無くなり、安心して暮らせる世界がくると思って戦っていた。

 なのに……実際に救った後の世界はどうだ?

 もし、俺があのまま魔王を倒していたとしたら、亜人や魔族は人間によって使い捨てにされる道具になってしまうところだった。

 何が平和だ。

 何が安心して暮らせるだ。

 平和なのは人間だけ、安心して暮らせるのも人間だけ……そんな世界、平和な世界ではない。


「さぁ、勇者バエラルよ続きを話して聞かせてくれ」


「……はい」


 その後、俺は淡々と旅の長話を語って聞かせた。

 話をするたびに貴族は俺の活躍を称え、魔物を蔑むようなことを言っていた。

 俺は必死に怒りを抑え、話を終えて部屋を後にした。


「……くそっ!」


 部屋を後にした後、俺は廊下の壁に拳を当てた。

 壁にはひびが入ったが、そんな事を気にできないほど俺の怒りは頂点まで来ていた。

 国王の話しではこの三日間の宴が終わり次第、王国軍を魔族の領土内に進行させると言っていた。

 

「それまでになんとかこの国を征服しないと……」


 この国の権力者達の言葉を聞き、俺は焦り始めていた。

 恐らく対話による和平の交渉は難しい。

 あの国王は俺が魔王側についたと知れば、躊躇なく刃を向ける。

 この国で権力者を仲間に引き入れる計画だったが圧倒的に時間が足りない。

 ここはひとまず魔王の城に戻るべきだろうか?

 そんな事を考えていると、後ろから誰かがやって来るのを感じた。

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