第8話



「陛下の入場です!」


 そう兵士の一人が声を上げているのが聞こえてくる。

 王の間の扉の前で俺は先ほど宰相のレイスに言われたことを考えていた。

 まさか魔王から世界征服に誘われ、王国に帰ったら国王になるきはないかと言われるとは……。

 だが、今は陛下にまずは報告だ。

 宰相の提案のこともそうだが、魔王との事を悟られないように自然に報告を済ませないと。

 そんな事を考えていると、ドアの奥から声が聞こえてくる。


「勇者様の入場!」


 声と共に扉が開き、俺は玉座に座る国王陛下の前まで行きひざまずく。


「勇者よ此度は魔王の討伐誠にご苦労であった」


「もったいなきお言葉をありがとうございます」


「して、魔王の首はどうした? 証明のために持ってくるよう申したはずだが?」


「申し訳ありません、魔王は激しい戦闘により消滅しました。なので首を持ち帰ることは出来ませんでした」


「何? それでは魔王を倒した証明にはならぬぞ?」


「はい、ですのでこれを持ってまいりました」


 この質問が来るのは予想出来た。

 なので、俺は魔王と相談し事前にある物を用意して持ってきた。

 

「む、これは……まさか……」


「はい、魔王の角です」


 強大な魔力を秘めていると言われる魔王の角だ。

 角には強大な魔力が眠っており、魔王の力の根源とも言われている。

 とは言ってもあの魔王の頭から引っこ抜いてきたものではない。

 なんでも、魔王の角は特定の周期で生え変わるらしく、今回はその生え変わって抜け落ちた一本を持ってきたのだ。

 抜け落ちた一本だというのに、ここまで魔力があるなんて……やはりあの魔王の実力はかなりのものなのだろう。


「誠か! それは見事だ! 鑑定の方は?」


「既に済んでおります、城常駐の魔法研究員全員がこれを魔王の角と認めました」


「それはよくやった、疑ってすまなかった」


「いえ」


「改めて申す、勇者バエラルよ辛く険しい旅を乗り越えよく戻った。そなたの功績を称え、なんでも一つ望む物を与えよう」


 これは旅に出る前からいわれていたことだ。

 魔王を討伐したあかつきには、なんでも一つ俺は願いを叶えて貰う事が出来る。

 旅立つ前の俺ならともかく、今は魔王と協力し世界を征服しようとしている俺だ。

 正直望む物など何もない。

 俺は仲間と幸せに暮らせればそれで良いと旅立つ前は思っていた。

 しかし、この国を征服の足がかりとするならば、俺はまず叶えたい願いがある。




「何? なんでも一つ願いが叶う?」


「あぁ、そうだ、魔王討伐を成功させた勇者はなんでも一つ、国王が願いを叶えてくれるんだ」


「なるほど……確かに魔王という強大な敵を討伐するのだ、それなりの報酬でもないとたとえ勇者でも行きたがらないからな」


 魔王城で俺は出発する前に作戦を練った。

 手始めに俺が居た国を征服するためにも、俺が王都に帰った際に何か事前に行動して置いた方がスムーズに事が済むからだ。


「あまり武力を使った征服はしたくない。この願いはもしかしたら何か使えるんじゃないか?」


「あぁ、勇者よそれは多いに使える。良いか? 聞いた話しだとお前の国の王はあまり良い王ではないのだろう?」


「まぁ……そうかもしれない……」


「であるのであれば、やることは一つ。お前は王の前でこういうのだ」


「え?」





「陛下、私は魔王が去ったこの喜びを国民皆で喜びたいのです。王国を上げての宴、それが私の願いです」


「何? そんなことで良いのか? 爵位や金、土地などでも良いのだぞ?」


「いえ、私が望むの平和で皆が楽しく過ごせる国です。私の願いは魔王討伐で果たされました。なのでこれからの平和な世界の幕開けを皆と酒と美味い食事で祝いたいのです!」


 この言葉に国王陛下は笑みを浮かべて「良かろう、それでは勇者の大きな功績を称え、三日三晩国を上げての宴を催すことにしよう」と高らかに宣言した。

 この言葉にその場にいた公爵や子爵達は笑顔を浮かべて喜んだ。

 これが征服の作戦だとも知らず……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る