第2話
「殺してくれ」
「……魔王の城までたどり着いた勇者のセリフではないな」
「頼むよ、あんただって邪魔な勇者が消えるんだ、徳だろ?」
もう、あいつらの居る世界に行きたかった。
死ねば俺も皆の居る場所にいけると思った。
正直こんな世界、もうどうでも良い。
きっと俺がこの魔王を倒しても世界から争いは消えない。
また別な争いが起こる。
やっとわかった、醜く汚らわしいのが魔族だけじゃないことが……。
「さぁ、殺してくれ」
そう言いながら防具を外し俺は魔王の目の前まで行く。
「……勇者が旅だったと聞いてから、私は魔王軍の幹部をお前の元に派遣しお前を殺そうとした、正直幹部はこの戦いで全員命を落とすと思った。しかし結果は……ほとんど誰も死ななかった」
「………」
「お前が見逃したからだ、なぜだ?」
「………あいつらとの戦いは終った、命を奪う必要なんてないと思った」
「幹部が報復に来ると考えたことは?」
「あいつらは俺達人間の貴族達よりもずっと良い奴だったよ……強者である事を自覚し、最後の最後まで弱者である魔物たちを守ろうとした……第五幹部のエリゴスは俺たちを見逃そうともしてくれた……お前なら魔族と人間の関係を変えられるかもって……でもそのエリゴスも……後からやって来た王国の奴らに……」
「なぜ悲しむ? お前にとっては敵だろ?」
「あいつは敵じゃなかった……魔物たちの愛の平和の為になんて、変な事を高らかに宣言する奴だったけど……良い奴だったんだ……」
「………そうか」
「もう良いだろ……早く殺してくれ」
「………」
魔王は玉座から立ち上がり、俺の方に歩いてきた。
これでやっと死ねる。
そう思った俺だったが、魔王は俺を通り過ぎ聖剣の方に向かって歩き始めた。
「聖剣レクトヘルム、この聖剣を持って現れた勇者は過去一人も居なかった」
「何を言ってるんだ? 早く俺を殺してくれ……」
「確かこの聖剣は真の正しき心を持つ物にしか抜くことが出来ず、その剣は悪を滅ぼすという言い伝えがあったな」
そう言いながら魔王はレクトヘルムを拾おうとする。
「よせっ! その聖剣は正しき心を持つ者にしか使えない! アンタが握れば聖剣が拒んでダメージを!!」
「よっと」
「な……」
魔王は簡単にレクトヘルムを持ち上げた。
今まで俺意外の人間でレクトヘルムを持とうとした者は天から雷と共に大きなダメージを受けたはずなのに……それがなぜ?
「この聖剣をもって魔王の間に来たのは長い戦争の歴史でお前だけだ」
「なんで……魔王がレクトヘルムを……」
「そんなの決まっている、私が正しき心を持つ者だからだ」
なぜだろうか、驚くべきことのはずなのに納得している自分がいる。
レクトヘルムは正しき心を持つ者のみが使う事を許される。
それが誰であっても正しき心を持っていればそれで良いのだ。
ということはこの魔王は……。
「まさか……魔王が正しき心を持つ者だったなんて……もっと早く知りたかった……」
「遅くなどない、お前の戦いはまだ終ってなどいないぞ?」
「え……」
「勇者バエラルよ、私はお前がここまで来るのを待っていた」
「どういうことだ?」
「私はずっとお前を見てきた、最初はどうやって倒すかの戦略を練るためだった……だが、お前は無益な争いを好まず、魔族を見た目だけで判断せず、旅の途中で魔族と人間の友好の道を探し始めた」
「それがなんだっていうんだ?」
「お前のような勇者は初めてだ、だから待っていた」
魔王はそう言いながら俺にレクトヘルムを返し、そのまま玉座の前に立って俺に向かってこう言った。
「勇者バエラルよ! 私と手を組め! そしてこの世界を我々の物にしようぞ!!」
「え……はぁ!?」
魔王は嬉しそうに笑いながら敵である俺にそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます