勇者だった俺は魔王と組んで世界を征服することにした

Joker

第1話

 あぁ、俺……なんで勇者なんてやってるんだっけ?

 国王や姫様、それに国民の皆の為だっけ?

 でも、なんで俺が勇者ってだけで大して見返りもないのにこんな魔物ばっかりの危険な魔王城に来てるんだっけ?

 仲間もいたけど、全員死んだ。

 戦士のアルバスは途中立ち寄った村で。

 魔法使いのエリンはつい先日、決戦に向かう前に宿屋で。

 そして僧侶のカリーナは今俺の目の前で……。

 全員人間に殺された。


「や、やめろ! あ、アンタ勇者なんだろ? だったら魔物を倒してくれよ!!」


 魔物?

 魔物ってなんだっけ?

 最初は知性も無いただ人間を襲う獣だと思っていた。

 でも魔王城に近付くにつれて、魔物は俺達と何も変わらない生活を送って、俺達と変わらない言葉を使って生活をしてて……。

 そして……俺を庇って死んだ奴もいた。

 魔物なのに……。

 なのに、人間はどうだ?

 俺の目の前で怯えながら殺さないでというこの男は、経った今俺の前でカリーナを殺した。

 理由は魔物を庇ったから。

 裏切った、魔王に寝返った裏切り者だとこの男に殺された。

 この男は魔王軍に捕まっていた貴族の息子だ。

 優しいカリーナはこいつを助ける為に苦労して牢屋までたどり着いた。

 だが、助けた瞬間この貴族の息子は牢屋の見張りをしていた魔物を殺そうとした。

 それを優しいカリーナは庇ったのだ。

 ここだけ聞くとおかしいのはカリーナだと思うだろ?

 でも違った。

 貴族の息子を解放したのはその魔物だったのだ。

 もう戦いは嫌だと涙を流しながら魔物は俺たちを相手に一度は持っていた槍を構えた。

 しかし、カリーナが約束をした。

 必ず魔族と人間の争いを無くして見せると、だから私を信じて彼を解放してくれと。

 魔物は震えながら槍を捨て牢屋の鍵を開けた。

 どうか、戦いを終わらせて下さいとカリーナに言って。

 

「なぁ……本当に世界にいらないのって……魔族なのかな?」


「な、何を言ってるんだ! 我々人間こそがこの世界の主だ! 魔物などおぞましく汚らしいこの世界の害悪ではないか!!」


 そうだろうか?

 貴族の息子は落ちていた槍を使ってカリーナと魔物を殺した。

 今まで旅をしてきて何人もの魔物と出会った。

 魔王軍の幹部の男は俺達勇者から村を守るために一人で俺達の前に立った。

 そして、勝てないと知ると武器を捨て俺達に「自分はどうなっても良い、だが村の魔物達は見逃してくれ」と自らの命を引き換えに魔物達を守ろうとした。

 俺を庇って人間に殺されたオークのマッシュは優しい奴だった。

 いつか人間と仲良くなって共に過ごす日々を夢見ていた。

 だが、人間はどうだ?

 国王は魔族を一匹残らず滅ぼせと俺に命じた。

 汚らしく醜い魔族はこの世から消せと。

 他の人間もどうだ?

 魔族は化け物、意思の疎通などはかれない、死んで当然の獣。

 何も知らないのにそんな事を言う奴らばかりだ。

 魔王城に来る前に何度も俺は人間の街で魔族は俺達と変わらない、争う必要はないと訴えた。

 しかし、帰ってきた答えは残酷だった。

 勇者様が魔王によって洗脳されてしまった。

 魔族の味方をするなんて、お前は偽物だ!

 魔物が化けているんだ!

 そう言って俺は同じ人間から石を投げつけられた。

 そんな俺の手当てをしてくれたのが、マッシュだった。


「マッシュ……こんな奴よりお前の方が生きる価値があったよ……」


「な、何を言っているんだ!? さ、さぁ早くその剣を仕舞い私を安全な場所……へ?」


「お前はもう……喋るな」


 この日、俺は始めて人を殺した。

 魔物では無く人を殺めたのだ。

 転がる貴族の息子の首を蹴り飛ばし、俺は殺されてしまったカリーナと牢屋の番をしていた魔物の遺体を魔王城の外に運んだ。


「カリーナ……すまない……」


 冷たくなったカリーナの手を握りながら俺は自分はなぜ魔法を真面目に取得しなかったのかと自分を責めた。

 蘇生魔法さえ使えればカリーナは死なずに済んだはずだった。

 死後5分以内に蘇生魔法を掛け、身体さえ蘇生出来れば彼女は生き返れたはずなのに……。

 こうして俺は最後の仲間であり、恋人だった女性を失った。

 一体俺は何と戦っているのだろう?

 本当に魔王は人間を滅ぼそうとする悪なのだろうか?


「う、うぅ………」


「お、おい! 大丈夫か?」


 牢屋の番をしていた魔物はまだかろうじて生きていた。

 しかしもう虫の息だ。

 俺は魔法を使えない。

 助けることが出来ない。

 またしても自分の非力さに腹がたった。


「ゆ……勇者……こ、これを……」


「なんだ? どうした?」


「妻……に……」


 そう言って魔物は息を引き取った。

 死に際に俺に手渡してきたのは写真の入ったロケットだった。

 そこには妻と子だと思われる写真が入っていた。

 

「……何が汚らわしいだ……何がおぞましいだ……」


 もう俺は分からなくなっていた。

 一体何の為に戦っているのかも、何が正義で何が悪なのかも……。

 だからこそ、前に進まなくてはと考えた。

 目的だった魔王の討伐。

 それを成せば答えは出るのか?

 分からない。

 でも、魔王の元に行かねば今までの苦労も仲間の思いの無駄になる。

 だから俺は魔王城を歩いた。

 不思議な事に敵の幹部も兵士も誰も出て来なかった。

 不気味なくらい静かだった。

 でも、だからこそすんなりと俺は魔王の間にやってくることが出来た。


「………お前が勇者か?」


「そうだ……」


 意外だった。

 魔王はなんと女だった。

 しかも、見た目は俺とそう歳も変わらない女の子だった。

 この子を倒し、首を持ち帰れば俺は勇者としての使命を完遂出来る。

 しかし……それで本当に平和なのだろうか?

 平和になっても、苦楽を共にした仲間はもう居ない。

 マッシュも居ない。

 カリーナも……居ない。

 そんな世界で俺は誰と笑えばいい?

 誰と酒を酌み交わせばいい?

 誰と……幸せになればいい……。

 そう考えた瞬間、俺の手から力が抜け聖剣が床に落ちた。


「なんだ? 戦うのでは無いのか?」


「わからないんだ……」


「何がだ?」


「さっき、恋人を失った……道中では仲間を……仲良くなった魔物の友達も失った……しかも、魔物に殺されたんじゃない……全員人間に殺された」


「………」


「わからないんだ……もう……アンタを倒してこの世界が平和になって、争いが無くなるのかも、魔族が敵なのかも……全部分からないんだ……」


「それで? お前はどうしたいんだ?」

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