出会う喫茶店

@K-kaoru

雨宿り

カランコロン、と心地よい音が響いて扉が開く。中には2人組の女性が一組と、カウンターに男性が一人座っている。雨宿りをするには最適と思われる状況だった。乱れたスカートや髪を整えながら、店内に入る。

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

ガタイの良い男性が、低い声で言った。カップを洗っている目の前で、サイフォンが並んでいる。後ろの棚にはおしゃれにコーヒー豆や紅茶の瓶が置かれていた。

1人なのでカウンターに座ると、白いタオルが差し出された。

「どうぞ、お使いください」

「あっ…ありがとうございます」

そんなに濡れている自覚は無かったが、いざ頭を触ってみると思いのほか手に水を感じる。せっかくなので拭くことにした。

「随分降ってるみたいだね」

1つ席を空けて座っている男性が話しかけてきた。

「はい、傘をさしても防げない嫌味な雨です」

「はは、確かに霧雨はそういうものだよね」

「あっ、注文を」

「かしこまりました」

「カフェオレをお願いします」

カフェオレを用意するたくましい腕をボーッと見つめる。

「かっこいいよね、店長」

「はい、そうですね」

「お待たせしました」

たいして待たずにカフェオレが出てきた。これといった特徴もなく、でも興味をそそられる匂いが漂う。うん、美味しい。肌に合う温もりが落ち着く。

「美味しいよね。僕もここのコーヒーが好きでさ」

「柏木さん、あまり話しすぎるとまたこの間のようになりますよ」

「いやいや、あのときは相談にのってあげただけだから」

「話しかけてたのは柏木さんからでしょう」

「だってあまりにも落ち込んでるから」

そのとき、またあのドアベルが鳴った。若い女性が一人、私と同じように茶色い髪に水滴をつけて入ってきた。

「あ…」

「おっ、お久しぶりです」

「お久しぶりしたくなかったわ。最悪…」

そう言いながら柏木さんと一席あけて座る。店長は同じように白いタオルを渡していた。

「柏木さんは先日、あの方にマシンガントークをして引かれたのです」

「本当に。新手のナンパかと思ったわよ」

「君があまりにも悲しそうだから気になっちゃってさ」

「…それはどうも」

「でも、また来たんだね。僕に会う可能性もあっただろうに」

「別に。ここの雰囲気好きだし。あ、私抹茶オレで」

「かしこまりました」

「どういう話をされたんですか?」

「…失恋したの。長いこと好きだったからショックも大きかったのよ」

そう話す割には、もう悲しみは少ないように見えた。吹っ切れたのなら良かった。

「君は、そんな恋愛したことある?」

随分と唐突にプライベートなことを聞いてくる。

「まあ、その…過去に、叶わない恋をしました」

「叶わない?それはまた、どうして」

「叶わないのに、叶うと勘違いして、自分から関係を壊したんです」

そこまで言って、後ろから「ごちそうさまでした」と聞こえた。どうやら二人組が帰るらしい。

「ちょっと普通のものではないかもしれないので、引かれるかもしれないけど…」

「大丈夫、話せるなら話してみてほしいな」

「…あんたの話も聞かせてもらえるんでしょうね?じゃないと、話し損になるわよ」

「分かってるって。それはまた、聞いた後でね」

普段は昔のことだと忘れているはずだったのに、不思議な雰囲気のせいか話してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る