まがった男

 ジェームズ・バークレイ大佐の死をホームズが明らかにするエピソード。オープニングはバークレイと妻のナンシーが口論しているのをメイドたちが聞きつけてざわざわするシーンから。ドアは開かず、庭に回った召使いが室内に入ると大佐は恐怖の表情を浮かべて死んでおり、夫人は気絶している。言い争いの際に婦人が言っていた「デイビッド」とは誰なのか。

 とにかく顔の演技がいいのです。バークレイ大佐役の俳優は冒頭の死に顔がいいし、それだけでなく生きていた頃の回想シーンでもさまざまな表情を見せてくれます。後半に登場する重要人物も、表情で魅せてくれます。

 また頻繁に用いられる雷光が効果的です。今見ると、強い照明を明滅させているだけなのでしょうが、当時の技術からすると結構、凝ったものだったのではないでしょうか。

 戦場のシーンもあり、爆破や小川を進む場面など、外での撮影が多いのも特徴。夜ということもあるのでしょうが、戦場の場面は全体的に暗く、重苦しい雰囲気づくりに一役買っています。

 一方でショウを楽しむ酒場でのシーンはエキストラもたっぷりで賑やかで華やかな雰囲気がよく出ています。

 ラストでワトソンが名推理をみせて、ホームズをやりこめるのも楽しいです。全体的に暗くて重い悲劇なだけに、この場面の明るさに救われます。オリジナルのグラナダ版ではこの先、ある人物一人だけのカットにかぶせるようにエンドロールが流れます。



【ネタばらしをして見所解説】


 バークレイ大佐の顔の演技もさることながら、見事なのは「まがった男」ことヘンリー・ウッド役の演技。バークレイ大佐の謀略にかかり敵軍に捕らえられ、拷問を受けて背骨が曲がり、満足に歩くこともできなくなった男を全身で表現しています。

 謎の言葉「デイビッド」の答えは肩透かし。裏切り者の象徴として、夫をなじるために婦人が用いたというのですが、これは日本人にはピンと来ないでしょう。

無理やりたとえるならば、本能寺の変で主君の織田信長を裏切った明智光秀みたいなものでしょうか。「ミツヒデ」という言葉から、裏切り者を導き出すのは、無理筋なようにも感じますが。もっとも「デイビッド」のほうは聖書からのようなので、イギリスでは無理のない発想なのかもしれません。

半密室状態だった部屋から鍵が消えていたことから、大佐と婦人以外の第三の人物がいて、その人物が鍵を持ち去ったとする推理の流れはスムーズ。そこから室内を調べて、謎の動物の足跡を発見。この動物はなんなのかという新しい謎が出てくるあたりも見事です。

 第三の人物の足跡が室内になかったのはなぜ、みたいなところは目をつむりましょう。ただ、外に出て芝の上にある足跡をしばらく追いかけるのは、ちょっと映像で見るとつらいです。やはり、こういう場面は足跡をアップにできず、引いた構図で足跡を追いかけるホームズを撮るしかないようです。

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