オートマティック
今日は日差しが暖かく、シジュウカラの囀りがあちらでもこちらでも聞こえて賑やかだ。
ニ人の会話は今日も続いている。
雪菜の声は明るい。
「自然界ってすっごく上手く調和がとれてるでしょ? 北斗は『雪菜が思っている以上に』って言ってたけど、どうやってその調和ってとれてるのかな? 北斗は調和をとる為に何を意識しているの?」
「意識? って何もしてないと思うけど。そもそも意識って何?
自然界ってさ。オートマティックっていうのかな。神様が仕切っているのかどうかは分からないけど、自然に上手く調和が取れるように出来てるんだと思う。そう、自然だから。ん? 自然なんだ。
何かしなきゃって思って行動してるんでもないし、腹が減ったら自然に餌探して必要なだけ食べてるし、危険な物からは勝手に逃げてるし、守らなきゃいけないものは勝手に守ってる。子供とか殺しちゃいけない命とか、掟も自然に守ってる。
たまにそこから外れた行動をする者が現れると、周りが変化していく。でも、それも管理されているっていうか、生態系が壊れないように上手く自然淘汰されていくんだ。
ほらほら。何ていうかさ。雪菜が笑うだろ? そしたらオレも合わせて笑わなきゃって思って笑うんじゃなくて、オレも自然に笑顔になるだろ? 雪菜が悲しそうな顔してたらオレは自然に手を握ってあげたくなる。そんな感じでさ」
雪菜は焦った。そんな事突然言われるなんて思ってなかったから。恥ずかしくなってわざとおどけた声で言った。
「北斗〜、冗談言ってると怒るよ、も〜」
北斗は真顔で言った。
「だってさ。真面目な話ばっかり書いてたら、読者が飽きちゃうだろ?」
雪菜はたまげた。
気を取り直して、雪菜は話を続けた。
「うちの庭にね。ベランダの入り口に、ある日突然リンドウが一輪咲いた事があったの。私が高校生の時にね。それまでそこにリンドウが咲いた事なんて一度もなかった。日中は訪れてくれるお客様達に「いらっしゃいませ」って言っているように花が少し開いて、日が落ちるとまた固く結ばれて、それを見るのが何か嬉しかったんだ。でもね、その年の秋だけだった。それ以来、いらっしゃいませのリンドウさんは一回も咲いてないの‥‥‥
あ、ただそれだけ。何のオチもなくてゴメン」
「いい話じゃないか。土の中にはさ、た〜〜〜くさんの命が眠ってるんだ。雪菜が生きている間に顔を出さない植物なんていっぱいあるよ。いらっしゃいませのリンドウさんは、たった一度でも顔を出すタイミングを感じて、あ、感じたんじゃなくて、その時が来て自然に顔を出したんだ。
雪菜と巡り会えた事は奇跡に近いのかもしれない。
オレと雪菜が巡り会えた事も。
あ、読者が飽きちゃうから言ったんじゃないよ。でも、あんまり言ってると読者が『またか』ってなるからもうやめとくけどさ」
そう言って北斗はケラケラ笑った。
「もー、北斗ありがと。なんか、いいよね、そういう自然の調和。昔は人々もその輪の中に入って上手く暮らしていたと思うの。それがだんだんだんだん、どんどんどんどん崩れていっちゃった。
人間達は自分達中心の世界を作り、それを広げて、留まる事なくもっともっと広げていこうとしている」
「そこで『待った』がかけられたってわけだよな」
「少しずつ、少しずつ、自然界の事を気にしながら、人間が便利な暮らしを求め始めたときはまだ良かったんだよね」
「ここ三十年くらいか? 一気に何か加速したよな。この急加速、怖いよな。コロロンウイルスの感染者数のグラフが目に浮かぶ。その前に止めなきゃいけなかったのにな。急加速の先にあるのは爆発だ。オレらは爆発を食い止める事が出来るのか?」
「止めなきゃね。大昔に戻れっていうんじゃなくて、行き過ぎた前位にリセットする事は必要だよね。戻るんじゃなくて、今は色んな技術も使えるんだから、もっと上手に作り変えられるはずだと思うんだけどな。このままじゃダメだって事は確か。
私、ネイティブアメリカンの教えにあるスパイラルっていう考え方が凄く好きなんだけどね。同じ所をグルグルグルグル回っているように見えて、実はその輪はどんどん大きく広がっている。本来はそういう成長を求められているんだろうなって思う。
それが自然界の仕組みだろうから。だってさ。私達人間にも色んな所にそのスパイラル、渦巻きの印が刻み込まれているんだよ。つむじとか、指紋とか、耳の中にも。
今の私達は直線的な成長を求められている。上に向かってグングングングン、どこまでもどこまでもなんて、そんな成長出来るはずないよね。やっぱりその先に待ってるのは爆発! って気がする」
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