地下アイドル、建国するってよ

カラザ

1章 地下デビュー編

第1話 地上波デビュー?

 地下アイドルというものがある。

 テレビに出ることもなく、ライブやイベントなどで活動を続ける彼女たちは、はっきりといって知名度が低い。地下アイドルという言葉を聞いたことがない人もいるだろう。

 たとえ言葉を知っていても、その意味まで知っている人は少ない。多くの人はこう誤解するだろう。


 本当の地下で活動しているアイドル、と。


 ♦♦♦


「ホントですか!?」

 こじんまりとした部屋で、島原しまばら美羽みうの声が響く。カッと見開いた眼はキラキラと宝石のように輝き、肩までかかる茶色い髪はさっきまで暴れていたのかというくらい乱れてきっている。右側頭部で結ばれた髪は、荒野を駆け抜ける馬の尾のように不規則に揺れている。

「マジもマジ、大マジだ!」

 相対する男……つまるところ彼女のマネージャーは、興奮を抑えきれないとでも言わんばかりに叫んだ。

 ライブ前であるというのに、美羽もマネージャーも緊張感を忘れてしまっている。彼女たちの頭の中は、目の前の話に上書きされてしまっていた。

「ついさっき先方がな……」

「夢みたいです。ってか夢じゃないですよね、いった!」

「いやぁ、美羽も琴葉も地道に頑張ってきた甲斐があったなぁ」

 彼が感慨にふけている中、美羽は騒々しくも現実を受け止める。

 彼女は深々とマネージャーに向かって頭を下げた。

「マネージャーさん……ホントにここまでありがとうございました」

「何言ってるんだ、こっからが本番なんだから琴葉ともども頼むぞ」

「はい!」

 喜びを分かち合っていると、部屋の扉が開かれた。

「お疲れー……って、何ハシャいでんの」

 部屋に入ってきた新たな少女は、騒ぐ二人を見て呆然としていた。

 金色の髪をくしゃくしゃとかきながら、背もたれを前にして近くのイスに腰かける。頬を背もたれにくっつけると、今にも眠りそうな姿勢で二人を少し見た。

「琴葉か、ちょうどいい。実はな……」

「いや、後にできない? リハ終わってクタクタなんですけど」

「そんなこと言うなって、大事なことなんだからさ」

 咳払いを一つはさみ、マネージャーは金髪の少女にかまうことなく言葉を続けた。

「なんとですね……地上波デビューが決定しました!」

「イェイ!」

「……は?」

 二人が大きな拍手で喜ぶ中、三宮さんぐう琴葉ことはだけが表情を曇らせた。赤いカラーコンタクトを入れた瞳が、大きく見開かれる。

「いやいやいや、ちょっと待ってって。あたしそんなの聞いてないんだけど」

「そりゃ、さっきのリハ見て声をかけられたからな。無理もない」

「ついさっきってことは、あたしのリハじゃん……」

「やったね! 琴葉ちゃんの実力が認められたってことだよ!」

 我がことかのように喜ぶ美羽を見て、彼女は首を傾げた。

「あんたってさぁ……なんでそんな大げさに喜べんの?」

「だってうれしいよ! 私たちもやっとテレビに出られるんだもん」

「そうだぞ! これは千載一遇のチャンスなんだ」

 自分だけが彼女たちの感情についていけないことに、琴葉は自然と機嫌が悪くなる。

 しかし、それよりも美羽の一言が気になった。

「え……ん? 待った。いま私たちって言った?」

 一人だけ状況のつかみ切れていない琴葉が、マネージャーを問いただす。

 そんなことなど知る由もないマネージャーは、間の抜けた顔で彼女と目を合わせた。

「あれ、言わなかったっけ。番組には二人で出演するって」

「聞いてないわよ! リハ見て声かけられたとしか」

「まぁ落ち着けって。曲は披露させてもらえるみたいだからさ」

(せっかくテレビに出られるのに琴葉ちゃん、なんでこんなにも怒ってるんだろ……)

 必死になだめられる琴葉を見て、美羽には一つの疑問が浮かぶのであった。

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