地下アイドル、建国するってよ
カラザ
1章 地下デビュー編
第1話 地上波デビュー?
地下アイドルというものがある。
テレビに出ることもなく、ライブやイベントなどで活動を続ける彼女たちは、はっきりといって知名度が低い。地下アイドルという言葉を聞いたことがない人もいるだろう。
たとえ言葉を知っていても、その意味まで知っている人は少ない。多くの人はこう誤解するだろう。
本当の地下で活動しているアイドル、と。
♦♦♦
「ホントですか!?」
こじんまりとした部屋で、
「マジもマジ、大マジだ!」
相対する男……つまるところ彼女のマネージャーは、興奮を抑えきれないとでも言わんばかりに叫んだ。
ライブ前であるというのに、美羽もマネージャーも緊張感を忘れてしまっている。彼女たちの頭の中は、目の前の話に上書きされてしまっていた。
「ついさっき先方がな……」
「夢みたいです。ってか夢じゃないですよね、いった!」
「いやぁ、美羽も琴葉も地道に頑張ってきた甲斐があったなぁ」
彼が感慨にふけている中、美羽は騒々しくも現実を受け止める。
彼女は深々とマネージャーに向かって頭を下げた。
「マネージャーさん……ホントにここまでありがとうございました」
「何言ってるんだ、こっからが本番なんだから琴葉ともども頼むぞ」
「はい!」
喜びを分かち合っていると、部屋の扉が開かれた。
「お疲れー……って、何ハシャいでんの」
部屋に入ってきた新たな少女は、騒ぐ二人を見て呆然としていた。
金色の髪をくしゃくしゃとかきながら、背もたれを前にして近くのイスに腰かける。頬を背もたれにくっつけると、今にも眠りそうな姿勢で二人を少し見た。
「琴葉か、ちょうどいい。実はな……」
「いや、後にできない? リハ終わってクタクタなんですけど」
「そんなこと言うなって、大事なことなんだからさ」
咳払いを一つはさみ、マネージャーは金髪の少女にかまうことなく言葉を続けた。
「なんとですね……地上波デビューが決定しました!」
「イェイ!」
「……は?」
二人が大きな拍手で喜ぶ中、
「いやいやいや、ちょっと待ってって。あたしそんなの聞いてないんだけど」
「そりゃ、さっきのリハ見て声をかけられたからな。無理もない」
「ついさっきってことは、あたしのリハじゃん……」
「やったね! 琴葉ちゃんの実力が認められたってことだよ!」
我がことかのように喜ぶ美羽を見て、彼女は首を傾げた。
「あんたってさぁ……なんでそんな大げさに喜べんの?」
「だってうれしいよ! 私たちもやっとテレビに出られるんだもん」
「そうだぞ! これは千載一遇のチャンスなんだ」
自分だけが彼女たちの感情についていけないことに、琴葉は自然と機嫌が悪くなる。
しかし、それよりも美羽の一言が気になった。
「え……ん? 待った。いま私たちって言った?」
一人だけ状況のつかみ切れていない琴葉が、マネージャーを問いただす。
そんなことなど知る由もないマネージャーは、間の抜けた顔で彼女と目を合わせた。
「あれ、言わなかったっけ。番組には二人で出演するって」
「聞いてないわよ! リハ見て声かけられたとしか」
「まぁ落ち着けって。曲は披露させてもらえるみたいだからさ」
(せっかくテレビに出られるのに琴葉ちゃん、なんでこんなにも怒ってるんだろ……)
必死になだめられる琴葉を見て、美羽には一つの疑問が浮かぶのであった。
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