五十鈴は最後にぎゅうっと月夜を抱きしめてから、ようやく解放した。


「ありがとう月夜ちゃん。ご飯食べていいよ」

「にゃあ」


 五十鈴が用意してくれたのは、魚のほぐし身だった。月夜は、はぐはぐと食べ進める。

 その横で、五十鈴も一緒に食事を取り始めた。


「おいしかったにゃ。ごちそうさまですにゃ」


 月夜はご飯を食べ終え、顔を洗いながら、ごちそうさまの挨拶をする。


「はい、お粗末様です。先に片してきちゃうね。それから、届けてほしい文があるから、ちょっと待っててほしいな」

「わかったにゃ。ここでまってるにゃ」


 月夜は再び、日の当たる縁側に出て、毛づくろいを始めた。かわいらしい猫のしぐさに、五十鈴は目を細めて笑いながら、膳を片付けに行った。


 しばらくすると、五十鈴が文とお金を包んだ懐紙を持って、戻ってきた。


「お待たせ。これが文ね。こっちはお金」

「はいにゃ」


 月夜は鞄からお金を入れている巾着を取り出し、その中にじゃらじゃらと入れた。それから文を手に取り、宛先を確認した。


「あいては、ふかがわのごふくてん、かわちやのわかだんな、信彦だにゃ? またこいつかにゃ。ふみのやりとり、おおいにゃね」

「ま、まぁお互い、同じ呉服店として意見交換をね」

「ふ~ん」


 月夜は不思議そうに声をもらして、落とさないように、鞄の蓋をしっかりしめた。


「それじゃ、いってくるにゃ!」

「はーい。よろしくね!」


 月夜は塀を飛び越えて、深川へ向かった。

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