出逢い
閑静な住宅街に泣き声が響く。子供の甲高い泣き方だ。僕は顔を
(うるさいなぁ)
そう思ったものの、少し向こうで泣き声の主が転んでいた。面倒事に関わりたくないが、目の前で泣いている歳の近そうな少女を放っておけるほど無慈悲ではなかった。
「大丈夫?」
ハッと顔を上げた彼女は驚いたような目で僕を見た。
うん。なんで驚かれているのか分からないけど泣き止んでくれたなら満足だ。立ち去ろうとした時、袖を引かれた。
「どうしたの?」
仕方なく要件を聞く。すると彼女は少し俯いて、掠れた声で呟いた。
「ぁ、ありがとう」
なんだそんなことか。
「どういたしまして」
今度こそ大丈夫だろうと思って立ち去ろうとする、が彼女の膝に目がいった。
「擦りむいてる」
どうやら転んだらしい。
「傷洗おっか」
彼女は小さく頷いて、僕の袖を掴んだまま着いてきた。ちょっと可愛い。
近くの公園で傷口を洗ってもらい、僕は鞄から絆創膏を取り出す。
傷を洗い終えた彼女はベンチに座った。こうして見ると、僕より少し若いように見える。
傷口に慎重に絆創膏を貼っていく。でも不器用なせいで凄く不格好になってしまった。
「ごめん。不細工になっちゃった」
彼女は首を振る。
「ありがとう」
はぁと溜息を吐いて、彼女に尋ねる。
「痛くないか?」
彼女は傷口を見て呟いた。
「ちょっとだけ痛い」
それなら大丈夫だろう。あまりに痛むようなら彼女の家まで背負うつもりだったが、一人で歩けるならそれでいい。
「そっか。じゃあ気を付けて帰るんだぞ。ちゃんと消毒するように」
彼女は立ち上がり礼儀正しくお辞儀をした。でも放った言葉は難解だった。
「黒猫さんありがとう」
それだけ言って走り去った。辺りを見回しても黒猫は居ない。何を見て黒猫と言った?
頭を捻らせながら家に帰る。やはり深い意味はないのだろうか。子供の発言はよく分からないな。僕も子供だけど。
帰り道、ショウケースに映る自分が目に入り言葉の意味を理解した。確かに黒猫だなぁ。つい微笑んでしまう可愛らしい発言だったようだ。
どうやら僕は礼儀が悪いらしい。人と話すのに、猫耳付き黒パーカーのフードを被ったままだったなんて。
これが、僕と彼女の出逢いの話だ。
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