最弱賢者の異世界無双。「大ハズレの無能賢者はいらない」と言われ、勇者パーティーを追われました。ゴミステータス&ネガティブスキル持ちの賢者ですがゲーム知識で無双します。

つくも/九十九弐式

第1話

アルティメットオンライン。


通称。AO。全世界で数千万人がプレイしている、大規模VRMMORPGだ。


引きこもりガチな男子高校生、俺——佐藤俊明はこのゲームを愛してやむない、廃ゲーマーだった。


俺はその仮想世界〈ゲーム〉の中で、賢者をプレイしていた。その賢者のLVは99。このゲームにおける最高LVは99。つまり、俺はこの仮想世界〈ゲーム〉において、これ以上強くなれない事を意味していた。


これ以上強くなれないゲームを続けるのも面白みが欠けるものだ。そこで俺はキャラクターのリセットをする事にした。これはこのゲーム特有のシステムである。キャラクターをリセットする事で、特別な特典(ボーナス)を貰った上で、新規にプレイができるのだ。その特典(ボーナス)はあまりに強すぎるが故に、LVがリセットされるに留まらず、いくつかのネガティブスキルを枷としていた。


これはゲームバランスを保つ為のものだ。ガ〇ダムのゲームでも、高性能の機体はコストが高かったりするだろう。そうやって枷を設ける事で、ゲームのバランスを保っているのだ。そこら辺のバランス調整をミスしてしまうと、『壊れキャラ』だの『チートキャラ』『バグキャラ』だの言われて、散々に叩かれるハメになる。


 俺がLV99の賢者をリセットして二週目のプレイをしようとした時、突如、俺の世界は暗転したのであった。


              ◇


「……こ、ここは……」


 意識を失った俺は目を覚ました。俺は一体……ここはどこだ? 目を覚ますと俺は見知らぬ場所にいる事に気づいた。


 いや……見知らぬ場所ではない。俺はこの場所を知っていた。この場所は城の中だ。AOをプレイする時の始まりの城だ。この城からゲームが始まるのを俺は覚えていた。


 目の前にいるのは髭もじゃの国王らしき人物だ。王冠をした、いかにも王様だ、って感じの人物。


 この始まりの国の王様だ。


「おおっ! 賢者よっ! お目覚めになられましたか」


「俺が……賢者?」


 俺の姿形は完全に変わっていた。自分が作ったゲーム内のキャラクターと完全に同じになってしまったのだ。


 どうやら、俺はプレイしていたゲーム。AOの世界に転移してしまったらしい。それにしても、俺は賢者か。プレイしていたゲームの状態と同じだな。恐らくはLVやステータス、スキルなんかも同じなんだろう。


「待っていてくれ……これからそなたと一緒に旅をする勇者がここに来るから」


「勇者?」


 このゲームではパーティーを組むのが普通だ。俺はこれから勇者パーティーの一員として仲間に加わるのだろう。


 ありがちな展開だ。俺は異世界に転移したにも関わらず、馴染みのある展開だったが故に、極めて平静に事態を受け止める事ができた。


 俺はステータスを確認する。ステータスウィンドウを開いた。


【アーサー】


職業:賢者


Lv :1


HP :10/10


MP :10/10


攻撃力:1


防御力:1


魔法力:1


素早さ:1


【魔法】


【スキル】


成長性鈍化※取得経験値に対するレベルアップ効率が低下する

ドロップ率減少※モンスターを倒した場合のアイテムドロップ率が減少する

取得金(ゴールド)減少※モンスターを倒した場合に取得できる資金が減少する


【所持金】


 0G


 よし! 俺は拳を握りしめた。思わず、ガッツポーズしたくなる気分だった。


 やはりだ……。俺がプレイしていた、ゲームの情報ままだ。俺がリセットした後の賢者そのもののステータスになっている。


 一見、ゴミステータスとゴミスキル持ちの、外れキャラクターにしか見えない事だろう。


 だが、そうではない。このキャラクターにはボーナススキルが付与されている。


 ボーナススキル。


【成長限界突破】だ。


 このスキルはレベルの概念を突破しうる。前までLV99だったレベル上限を突破し、三桁どころか、四桁までのレベルアップを可能にできる。


 つまりは、無限に強くなる事ができるのだ。この恩恵はネガティブスキルをつけなければつり合いが取れない程、破格(チート)なものだ。


 俺にとってはそのネガティブスキルすらも一種の縛りプレイのように機能していた。これくらいのハンデがなければ面白くない。


 前回、賢者をLV99まで上げる程、徹底してこのゲームをやり込んだ俺だ。このハンデがあっても、十分にやっていける自信があった。


 俺はそう思っていたのだ。


「賢者アーサーよ……待っておれ。もうすぐここに勇者パーティーが来るから」


 始まりの国——ペンドラゴンの国王はそう言った。


「……へっ。ここにいるんだろ? 俺達の仲間になる頼もしい賢者ってやつが」


 ぞろぞろと、三名の人間達が現れた。いかにも勇者といった風貌の男。それから僧侶といった感じの女。戦士といった感じの男。その三名だ。


「紹介しようではないか。彼の名は勇者ライト……魔王を倒す為に共に旅をする、勇者パーティーだ」


「……へっ。俺達の仲間になるんだ、ちったぁ役に立ってくれよ。賢者さんよ」


「ええっ……まったくね」


「せいぜい、俺達の足を引っ張らないように、頑張るんだな」


 勇者パーティーの面々は俺を嘲ってきた。


「王様。こいつのステータスを見せてくれよ……仲間になる賢者がどんなステータスでスキルを持ってるか確認しなきゃ、作戦の立てようもねぇだろ?」


「う、うむ。そうだな。待っておれ。今、この魔晶石(クリスタル)でこやつのステータスを確認しよう」


 国王は魔晶石を使用した。ステータス鑑定用の魔法道具(アーティファクト)だ。魔晶石が眩しく光、俺を照らし出す。


 そして、空間に俺のステータスとスキルが移し出されるのだ。


「おっ……出た出た。なんだ、このゴミステータスは!」


 勇者ライトは驚き、慄いていた。


「本当……スキルもろくなものがない」


「俺達は既にLV30程度にはなっている……今更、こんなLV1の賢者に何の用があるんだ?」


 勇者パーティーは慄いていた。


「い、一体……どういう事なのじゃ。な、なぜ世界を救うはずの勇者パーティーに加わる賢者が、こんな役立たずなのじゃ」


 国王は嘆いていた。


「おい! 雑魚賢者!」


 俺は勇者に粗暴な態度を取られた。


「は、はい……な、なんでしょうか? 勇者様」


「てめぇはクビだ! てめぇみてぇな、無能賢者は俺達の勇者パーティーには必要ねぇんだよ」


「ま、待ってください! 勇者様! 確かに俺のステータスは低いですし、ネガティブスキルもついています! しかし、隠しスキルで俺は【成長限界突破】を保有していますっ! これはお釣りが来る位の凄いスキルなんですっ!」


 俺は必死に説得を試みた。


「最初は皆さんの足を引っ張るかもしれませんっ! ですが、いずれは成長し、必ず、俺は皆さんの役に立てますっ! どうか、俺を長い目で見て、パーティーに加えていただけないでしょうか?」


「へっ。ふざけんじゃねぇよ。そうまでしてまで、俺達勇者パーティーにしがみつきたいのかよ? そんな大嘘を並び立ててまで」


「全くね……見苦しいにも程があるわ」


「俺達、勇者パーティーの一員として世界を救えば、金と名誉と地位を手に入れる事ができる。無能なりの浅知恵で、俺達勇者パーティーに取り入ろうと必死なんだろうさ」


 勇者パーティーの面々は俺を嘲ってきた。俺は真実を告げたにも関わらず。


「ほ、本当にいいんですか? お、俺は真実を告げただけなんですよ」


「うるせぇ! 大嘘ばかり並べやがって! てめぇみてぇな無能賢者は俺達には必要ねぇんだよ!」


 勇者は俺に告げた。


「悪いな……賢者アーサーよ。お前に期待したわしが馬鹿じゃった。貴様などでは勇者パーティーの賢者が務まるわけもない。この役目からは降りて貰おう」


「そんな……」


 俺は絶句した。

 

「いいから出てけっ! この大ハズレの無能賢者っ! そして二度と俺達の前に面を見せるんじゃねぇっ!」


 勇者は冷たく俺に言い放った。


「くっ! ……」


 とてもこの場には居られなくなった俺は、脱兎のごとくその場を逃げ出していった。






 



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