素敵な連休を満喫しますわ⑥

『……きみに何を言ったらいいのか、わからない』

『僭越ながら、申し上げても宜しいでしょうか?』

『ものすごく嫌な予感しかしないけど……聞いてあげよう』


 あれから家に帰った。両親に服装について驚かれながらも、寝室で倒れるように目を閉じて。

 わたくしは久しぶりの神様に申し上げる。


『神様の助言が役に立った記憶がございません』

『ほんっときみはかわいいなー!』


 うふふ。超美青年が目くじら立てる姿、少々そそられるものがありますわね。

 ここ数日、アルバン男爵宅ではほとんどまともに寝ていませんでしたから。だってレミーエ嬢、本当に寝相が悪いんですもの。いびきも掻きますし。……日中しごきすぎて疲れが溜まっているのかもしれませんが、いつかの時にベッドで殿方に幻滅されては、レミーエ嬢が可哀想でしょう? 注意すべく気を張っていたら……わたくしの方が寝不足になってしまいました。


 でも、とても充実した連休でしたわ。

 久々の神様との茶会も楽しいですしね。


『そんなことより如何ですか? わたくしの用意したお茶は』

『別に、こんな気を使わないでいいのに』


 むすっとしながらも、神様はわたくしの用意したお茶を飲んでくださいます。

 枕元に置いておいたら、本当に持ってこれたんですの。それをティーセットを抱えて立ち竦んでいたら、見かねた神様が素敵なテーブルセットを用意してくださいました。ふふっ、椅子の座り心地もいいですし、テーブルクロスのレースが綺麗ですわ。


『明日はお茶菓子も持ってきますわね』

『だから、別にいいって』

『ふふふ』


 わたくしも紅茶を舌鼓。さすが夢の世界というべきか、お湯を沸かして随分経つというのに、いつまでも適温。ずっと芳醇な香りを楽しめるというのは至高ですわね。

 そんな優雅なお茶を楽しんでいると、神様がチラチラとわたくしを窺ってくる。


『なんですか?』

『いや……自分の助言は役に立たないようだから』


 ……あら、拗ねてましたの?

 その様子も可愛らしいですが、神様としては如何なものでしょう?


『役には立ちませんが、聞かないとは言っていないですよ?』

『きみ、ほんとーにかわいいね!』

『お褒めいただき光栄ですわ』

『嫌味だよっ‼』


 わかってますわよ、そんなこと。

 でもね、わたくしも意地悪していいと思いますのよ?


『でも、神様もわかっていたのでは?』

『なにが?』

『ザフィルド殿下のことですわ』


 レミーエ嬢へのいじめの一連を、わたくしが犯人であるかのように偽り。そして、わたくしを階段から突き落とした。

 まぁ、階段の件は他の者を雇ったんでしょうね。さすがにザフィルド殿下が近くにいたら、わたくしも注視しますもの。関与しているのかとカマをかけたら、当たったようですが。レミーエ嬢がやったと思わせて、本格的に対立させたかったのでしょうか? そしてサザンジール殿下の不貞を公にして、自分が王位を継ごうとしたとか?


 わたくしは飲みかけのカップをソーサーに置く。


『そんな殿方をわたくしに勧めたのですよ? 少々趣味が悪いのでは?』


 神様なのだから、ザフィルド殿下の思惑もわかっていたのでしょう?

 そう問えば、神様はむくれた様子で視線を逸らす。


『そうでもないでしょ。彼のきみへの気持ちは本物だし、きみが彼を受け入れてあげれば、とても大事にしてくれたと思うよ』

『階段から突き落としたひとが、ですか?』

『あれも、実は弟王子が受け止めるつもりだったんだよ。ただ、たまたま近くにいた兄王子がきみを助けようとして……まぁ、失敗したんだけど。兄王子が下敷きになってくれたから、きみも大きな怪我はなかったでしょ?』


 え、知らない……。知らないですわ……。

 サザンジール殿下が、わたくしを助けようとしてくれたの? もしかして、わたくしのお見舞いに来てくれていた時、顎に怪我をしていたのは……そのせいだったとか?


 わたくしは開けた目を閉じることができない。


『わたくし……お礼を申していませんわ……』


 それなのに、わたくしはあのお見舞いですら『デート』と揶揄して、胸中で罵ったの? 


『一度、兄王子と話してみれば? 弟王子の謀反疑惑もあるし、あの令嬢ちゃんにも懇願されてたでしょ。思いの外、いい結果になるかもしれないよ』

『そう……ですわね』


 本当は、最期の時に。言いたいことだけ言って、さよならをするつもりだったの。

 だって……醜いところを見せたくなかったから。嫉妬も。怒りも。悲しみも。そんなの美しくないでしょう? 婚約者である彼の前では、最期まで完璧な淑女でいたかったから。だから、わたくしは――。


 それでも、あと二十七日。

 残りの人生としては短いけれど、このまま避け続けるには少し長い。


『考えてみますわ』


 そう応えると、含み笑いが聞こえる。当然、目の前には神様しかいない。


『ど、どうして笑ってますの⁉』

『え? だって自分の助言、役に立ったでしょ?』


 う、うわぁ~。腹立ちますわっ! この流れを作るために、会話を誘導したんですの? 手のひらで踊らされるなんて、恥ずかしいじゃありませんか⁉


『か、神様風情が生意気ですわよ⁉』

『あはは~。神様風情って暴言は初めて聞いたなぁ』

『もうっ‼ 役に立つかどうかは、これからなんですからねっ!』


 そう――これから。殿下と話して、どうなるかなんてわからない。

 ただわたくしが知っていることは――二十七日後にわたくしは死ぬ。ただ、それだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る