ガラス玉越しの前世

*うみゆりぃ*

第1話 「ガラス玉越しの前世」

桜も散り、青々とした若葉が芽吹きはじめた頃


幼い女の子の手を引いて

たくさんの人で賑わう

ショッピングモールを訪れていた



わたしはその女の子のスカートと

同じ花柄のワンピースを身に付けている



ふいに左手をくいっと引っ張られた

手元に目をやると

女の子は人壁の向こうを指さしていた



漆黒の瞳が

わたしたちを見つめていた



わたしはその瞳の奥に

不思議な懐かしさを感じた



けれど

いくら思い返してみても

その瞳に逢うのは

どうやら今日が初めて



心臓の鼓動が高鳴る


いったいいつ、どこで

あなたに逢ったのか


思い出せそうで

思い出せない感覚



ふっとまたガラスの壁越しに視線を戻すと

たくさんの人混みで

あなたは見えなくなってしまっていた




どうしてもどうしても

あの瞳が気になってしまい

頭から離れない


恋とは何かまた

違う感覚のようで


忘れたままじゃ

イケナイ気がして


再びショッピングモールを訪れて

同じ場所に足を運ぶ



すると


あなたは昨日と変わらずに

”そこ” に居た


わたしたちと目が合うと

あなたは微笑んだ




吸い込まれるようなガラス玉に

前世の記憶のようなものを

引っ張り出される


ここでわたしと再び出逢うために

ずっと待っていてくれたのね




「ねぇ、あなた、うちに来ない? 」




つい、あなたを自宅へ招き入れてしまった

女の子も喜んだ





食事が終わると

あなたとわたしはソファーで寄り添う

それが日常になってゆく


あなたは膝枕が好きだった

だからあなたを膝に抱き

優しく頭をなでながら


今日感じたこと、思ったこと

何でもあなたに話した


あなたは黙って微笑んでいた




”離れゆく愛” に


わたしがマグカップを

落として割った日も


何度も髪をかき上げながら

声を押し殺して泣いていた日も


真っ暗な部屋で

鼻をすする音が少しでもすれば


あなたは心配して

必ず隣に寄り添って

その瞳でわたしを見つめるの




あなた、わたしに恋をしているでしょう?

絶対そうよ


愛おしそうにわたしを見つめる瞳に

見覚えがあるもの


きっと前世の記憶ね


わたしたち

壮絶な死に別れでもしたのかしら


あなたは笑う




再び出逢える運命なんて

ファンタジーの世界でしか

ありえないって思っていた


でもこうしてまた隣で寄り添える



その奇跡

大事にしたいと思うの





「ガラス玉越しの前世」




~ to be continued


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