第103話 決着とその先
最初こそ三人は個別に戦っていた。
だがそれも、カズマの行動で乱戦へと移行する。
それは、カズマが奥の手を出したからだ。
カズマの対戦相手は、ソードスの予備の高級な剣を借りて戦っていたのだが、その剣の質はもとより、その腕も優れていたから、カズマは早く仕留める為に、必殺剣を発動した。
それが、刀身に水を纏わせた『水切り』である。
カズマは何も言わずに、その水切りを発動して、対戦相手を剣ごと斬り捨てようとした。
しかし、それに対して横で母セイラと戦っていたソードスの反応が早かった。
ソードスは脇目にカズマの『水切り』が危険と感じて、母セイラの斬撃をかいくぐってカズマから自分の部下に振り落とされる一刀を払いのけたのである。
「た、助かりました、ソードスさん!」
カズマの奇襲とも言うべき奥の手から回避できた部下は入れ替わるように、母セイラに対した。
その手にある剣に炎を纏わせてだ。
つまり、ソードス側は、魔法剣を使用できる者が二人もいたのである。
いや、違った。
それは三人全員だった。
なんと、アンと対峙していた男は、ソードスと仲間の二人が魔法剣を使用したので、技が解禁されたとばかりに自らも魔法剣を発動させたのである。
その剣は二人と違い風を纏っているようだ。
剣の周囲はシュルシュルと音を立てて風が起きているのがわかる。
こうなったら、アンも対抗して、と言いたいところだが、アンはこういった技がない。
だから、一見するとカズマ達が不利に思えた。
確かに、不利なのだが、母セイラは戦う相手が帝都最強の剣闘士ソードス相手から、その部下に代わったので、先程より身軽に動けるようになったのだ。
だから、アンをサポートするように共闘して二対二の戦いに移行した。
その間のカズマは水を纏わせた刀『水切り』でソードスと互角に戦い始める。
ソードスの『火焔剣』は、母セイラたちが使用する『火炎剣』の上のクラスの魔法剣だったが、カズマの剣、『水切り』はその『火焔剣』と相性で上回っていたのだ。
ソードスは初めて見る『水切り』の技に、
「ちっ! 相性的に不利か……!」
とすぐに悟り、『火焔剣』を引っ込めて、普通の剣に戻した。
「──だが、これはどうだ?」
ソードスは全く慌てる事なく不敵にそう言うと、手にする剣にボコボコと石が飛び出してきた。
魔法剣には火、水、土、雷、風とあり、それぞれ相性がある。
それが同属性の間で上下があっても、相性の前には一段どころか二段くらい差が開いていしまうのだ。
水に対して土が比較的に相性が良かったから、ソードスは慌てる事なく対応してきたのであった。
「……」
カズマは有利な状況が一転した事に、無言になる。
隣でアンと共に戦っている母セイラもカズマの不利を悟り、カズマと再度入れ替わろうと動くが、そこは相手もすぐに理解して間に入って邪魔をした。
「カズマ、少し粘って! こっちを早めに片づけるから!」
母セイラはそう言うと、アンと視線を交わして頷く。
「二人とも大丈夫だよ! 僕の事は気にしなくていいから、自分達に集中して!」
カズマは冷静にそう応じる。
「はははっ! 魔法剣の相性は剣の腕以上に、想像以上の開きが出るぞ? お前の水の魔法剣は、俺の『土流剣』の前では、圧倒的不利だ!」
ソードスは勝利を確信すると、カズマに斬りかかる。
確かにソードスの言う通り、相性が悪いのは確かだ。
それはカズマの刀の高品質をもってしても埋められない差である。
だが、カズマは慌てなかった。
「勝利を確信するのは、勝負に勝ってからでござる」
カズマは下段に構えた刀を跳ね上げながら、そう指摘した。
カズマの刀は相性の悪いソードスの振い落としてきた『土流剣』を迎え撃つ。
すると、次の瞬間。
カズマの斬り上げる刀が一瞬消えたかのように、見えた。
だが、それは一瞬の事で、ソードスの土魔法を帯びた剣は真っ二つに断たれ、返す刀でソードス自身も逆袈裟斬りに体を斬られていた。
「そ、そんな馬鹿な……!」
ソードスは何が起きたのかわからないという表情をしている。
「秘剣『雷切』でござる……」
カズマはそう一言だけ告げるのだったが、その時、母セイラとアンも敵二人から剣を払いあげて勝負がついたのであった。
ソードスは弟子時代以来の敗北に呆然としていた。
傷口は決して浅くはないが、かといってすぐに死ぬというほどでもない。
その辺りはとっさに体が動いたというところだろう。
実はカズマの秘剣『雷切』に一瞬、兄弟子の影を見て少し踏み込みが浅くなったのだ。
その兄弟子とは、カズマの腹を切り裂き、セイラを殺しかけた、カーズマン一振斎に破門された剣豪サシムの事である。
「……はぁ、はぁ、はぁ……。貴様、誰から剣を学んだ……? そっちの女からではあるまい? お前からは長い研鑽を積み、一つの境地に達した剣豪のそれを感じた……」
ソードスは荒い息をつきながら、破門された兄弟子と同じ境地に達した剣を感じるカズマに問うた。
「実戦の中で戦った相手からとだけ言っておきます。──それで、負けを認めますか?」
カズマは質問をはぐらかすと、勝敗を確認する。
「……ああ、俺の負けだ……。──我らの負けを認める……!」
ソードスはカズマに負けを認め、さらには静かになっている会場の観客に向けて大きな声で応じた。
その瞬間、沈黙していた観客から、大歓声が巻き起こる。
まさか、帝都最強の剣闘士ソードスが地方の剣闘士と飛び入りの若い男女に負けるとは思っていなかったのだ。
この大どんでん返しに、興奮しない者はほぼいなかった。
もちろん、カズマ達に対しての賞賛で興奮している者ばかりではない。
ソードスに賭けていた者もいたから、そういった者はソードスを罵る怒号で興奮していた。
観戦していた皇帝もこの結果には呆然としていたが、ソードスが負けを認める発言をして、静かに怒りで震えていた。
「御前試合で負けるなボケェ!」
「俺の全財産どうしてくれるんだ!」
「皇帝陛下、こんな奴には死を!」
観客はそう言うと、親指を下げ、ブーイングである。
皇帝は、その勘客の声に答えるように立ち上がり、大袈裟に親指を立てると、それを下げてみせた。
つまり、勝者に敗者を殺せとの命令だ。
「殺せー!」
「やっちまえ!」
「敗者に死を!」
剣闘場は、勝者であるカズマ達に敗者を殺すように煽る声で再度、熱気を帯びるのであった。
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