第16話 襲撃
カズマは七歳を迎えた。
その間に、『霊体化』について実験をしたり、幼馴染であるアンのスキル『旅芸人』を伸ばす為に一緒に修練を積んだりと忙しい日々であったから、あっという間であった。
そんな七歳を迎えた日のみなが寝静まった夜。
父ランスロットが領境へ遠出していた留守の時に自宅に異変が起きた。
何者かの襲撃を受けたのだ。
母セイラはすぐにこの襲撃を察知、息子カズマを起こしていち早く地下の隠し部屋に身を潜め武装を整え始める。
襲撃犯は、バタバタと室内を移動しているが、目的のセイラとカズマを見つけられない。
「ベッドはまだ、温かいぞ! 遠くには行っていないはずだ、探せ!」
「そっちはどうだ!?」
「こっちはいない!」
「こっちに地下があるぞ!」
「隅々まで探すんだ!」
襲撃犯はドタバタと室内荒らしながら捜索するが見つからない。
「ひそひそ(……お母さん)」
「ひそひそ(……何?)」
「ひそひそ(このまま見つけられないと、家に火を放たれる可能性もあるから、僕があいつらを引き付けるよ)」
「ひそひそ(……危険だと感じたら『霊体化』で逃げるのよ?)」
「ひそひそ(わかった)」
カズマはそう答えると、武器収納から脇差しを出して慣れた手つきでお腹に突き刺す。
そして『霊体化』すると、外に出て行く。
室内には襲撃犯が、八人いる。
外には、七人だ。
十五人も数を揃えてくるとはかなりの本気を感じる。
カズマはそれを確認すると、庭の外の草陰まで行って『霊体化』を解く。
そして、
「お母さん待って!」
と言って、外で待機していた襲撃犯の視界に入るように茂みから飛び出し、また、違う茂みに飛び込んだ。
「二人は外にいるぞ! 追いかけろ!」
待機組の襲撃犯を大声で室内の仲間に声を掛け、カズマの後を追う。
室内組も急いで外に出て、カズマの逃げた方向を確認して追跡に入る。
カズマは、小さい体で茂みを縫うように逃げるとこれがなかなか見つからない。
襲撃犯達は、カズマの逃げる方向に母親もいると判断し、半包囲隊形で展開して追いかけた。
そこで不意に、逃げている子供の気配が大きな茂みの奥辺りで消えた。
襲撃犯はそこに母親もいると判断した。
何かいる気配を感じたのだ。
きっと息子の口を塞いで気配を消し、息を潜めているに違いないと判断した。
じりじりと包囲を狭めていく。
「大人しく出て来な。素直に出てくれば、悪いようにはしない」
襲撃犯はそう言いながら、油断する事無く槍を構える。
なにしろ相手は元王国騎士団長だ。
油断したらこちらが死ぬ可能性が高い。
襲撃犯は完全包囲し、お互いの視線でタイミングを計ると、大きな茂みに全員で槍を突き立てた。
プギッ!
「手応えあった!」
「仕留めたぞ!」
「誰か灯りを!」
「馬鹿、こんなところで照明魔法を使用したら、明るすぎて近所住民が気付くかもしれん。ランタンを出せ!」
襲撃犯はすぐにランタンに火を点けると、大きな茂みの中を照らして確認した。
そこには、ビッグボアという獣の子供が絶命していた。
「どういう事だ!? 子供の気配はここまであったはずだぞ!?」
「周囲を探せ! 城門傍の領兵の待機所に駆けこまれる前にこっちが先に見つけて始末するんだ!」
襲撃犯達は、困惑する一方、まだ近くにいると思って探索を始めた。
だがすでに『霊体化』したカズマは領兵達の待機所まであっという間に飛んでいき、近くの茂みで『霊体化』を解除して助けを求めた。
「うん? 隊長の息子のカズマ君……か? ──家が賊に襲われた!? ──全員騎乗! 隊長の自宅まで全速力だ!」
領兵達は急いで馬を引き出すと騎乗して、現場に向かう。
カズマはそれを見送ると、また、茂みに入って『霊体化』する。
そして、先にまた飛んで戻るのであった。
母セイラはカズマが襲撃犯を引き付けている間に武装に身を固め、地下の隠し部屋から出ていた。
すでに襲撃犯は周囲にいない。
「……カズマ大丈夫かしら」
セイラはそれだけが心配であったが、カズマの能力はある意味最強である事はこれまでの実験で証明されていたから、落ち着いて使用していれば、無事のはずだ。
そう自分に言い聞かせて、襲撃犯が戻ってくるのを待つのであった。
二十分ほど経つと、二人を見つけられない襲撃犯が五人程、家まで戻ってきた。
家に帰っているかもしれないと考えたのか、火を点けようと思ったのかのどっちかだろう。
その襲撃犯が室内に入ろうとすると、一番前の男の後頭部に剣が生えていた。
その剣が凹むと、その襲撃犯はその場に崩れ落ちて絶命する。
「わっ! い──」
後に続く襲撃犯が何かを言う前に玄関から飛び出してきたセイラに首を刎ねられていた。
セイラは返す剣でさらに一人の首を刎ね、左手に握るもう一本の剣で、驚いた顔の襲撃犯の胴体を串刺しにした。
最後の襲撃犯は、逃げ出そうと仲間がいる方向に走り出したが、次の瞬間、セイラは右手の剣を地面に突き立てると、腰にあったナイフを抜き、その逃げる襲撃犯に向けて投げていた。
月明かりに一瞬キラッと光ったナイフは襲撃犯の逃げる後頭部に吸い込まれて行く。
「こっち──」
襲撃犯が仲間に知らせようと声を上げたが、それもほとんど声にならないまま、後頭部にナイフが刺さった状態でその場に倒れ込み、絶命するのであった。
「室内に入って来た時の人数は足音から八人くらい。外に待機している者も同じくらいとしたら、合計十五人ほどのはず。残り十人も各個撃破出来れば私一人で十分ね」
セイラはそう計算すると、襲撃犯が逃げた方向に向かう。
月明かりが頼りの森だったが、雲で月が隠れて暗闇が訪れる。
そこに、一人がランタンを持った襲撃犯が三人やってきた。
暗闇のシルエットを確認して、
「おい、何かあったのか?」
と、声を掛ける。
シルエットは何も言わずに近づいて来た。
その瞬間、月が雲から覗き、その人物を美しく照らす。
返り血を浴びたセイラがそこには立っていて、襲撃犯が気付いた時には抵抗する間もなく、あっという間に三人とも切り殺されるのであった。
残り七人。
それからさらに四人セイラに切り殺された襲撃犯は、駆け付けた領兵達によって捕縛という名の保護を受ける事になるのであった。
カズマは『霊体化』した状態でその光景を見ていた。
助けの必要がないどころか、自分が姿を現せば、足手纏いになると思ったからだ。
それは正解であった。
「うちの母上はやはり凄いでござる……!」
『霊体化』したカズマは、思わずござる口調で、親のその圧倒的な強さに驚愕するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます