第14話 二人のスキルの可能性

 カズマと母セイラ、そして、自分のスキルについて見つめ直した幼馴染のアンは一緒に修練に励んだ。


 父ランスロットは、領境でよその貴族との小競り合いが増えてかなり忙しくしており、ここのところずっと家に帰れない日が続いていたから、家族や近所のアンの変化を知る事は無かった。


「ランスロットおじさん大変だよね。私がここに通っている間、ずっと見てないもの。帰って来てないんでしょ?」


 アンはセイラやカズマの心中を察して、休憩時間にそうカズマに漏らした。


「今、お父さんかなり忙しいみたいだからね。──僕より、お母さんの方が寂しいんじゃないかな?」


 カズマは六歳らしからぬ反応を見せた。


「カズマって、私より小さいのにそういうところだけはしっかりしているわよね?」


 アンが今度は可愛げのない四歳年下の長馴染みの愚痴を漏らした。


「僕も寂しいよ?でも、お母さんはお父さんとラブラブだから」


「ラブラブ?」


「うん。ラブラブ。仲の良い夫婦をそういうらしいよ?」


 カズマは前世の幽霊時代に知った中途半端な知識を披露した。


「へー。ラブラブって言うんだ。じゃあ、私の両親もラブラブね。いつも領都でお仕事一緒に頑張っているもの」


 アンは仲の良い自分の両親を自慢した。


 アンにとっては、だからこそ親のお店を継ぐ為のスキルを求めていただけに自分のスキルを恥じていたのだが、今はもちろんそんな事はない。


 セイラとカズマの親子がそれを教えてくれたのだ。


 二人はその後も他愛のない話をしていると休憩時間が終わり、修練に戻る。


「今日の午後からは、二人共スキルについて学びましょうか」


「スキルについて?」


『旅芸人』スキルのアンはともかく、この世界初めてのスキル『ゴーストサムライ』については学ぶ事はできないから、二人は首を傾げた。


「アンちゃんの『旅芸人』は知られているスキルだから、こちらから学びましょう。カズマも知る事で、アンちゃんをより深く理解する事が出来るでしょ?」


「「はーい!」」


 二人は手を上げて賛同する。


 前々世、前世と数百年を過ごしてきたカズマであっても、この異世界の知識はほとんど皆無だから、知るという事はかなり大事な事であった。


「じゃあ、旅芸人について、知っている事は何?」


 セイラは質問形式で進めるつもりのようだ。


「踊り子とか、歌い手、占い師、手品師、軽業師などが一緒になったスキル?」


 アンはやはり自分のスキルだからどこかで調べたのか意外に詳しかった。


「そう、その通り。普通、踊り子や歌手、占い師などそれだけでもスキルとして存在するのだけど、『旅芸人』はそれらを含むいわば上位職なの。もちろん、全てが使えるかどうかはわからないけどね。個々で向き不向きもあるから。でも、複数のスキルを統合しているから、それらを磨けば、生活において色々と役に立つわよ」


「でも、娯楽だよね?」


 カズマにとっては、前々世のサムライ時代の価値観がある。


 もちろん、前世ではその娯楽がいかに心癒すものかは知っているが、それでも娯楽は二の次という感覚があるのだ。


「ふふふ。うちの息子は頭が固いわね?例えば踊り子を成長させると、体力や俊敏性などが向上するわ。占い師なら運が、手品師なら器用が向上するの。器用と言えば、アンちゃんの家の裁縫店では必須な能力よね?」


「うん!器用が低いと、裁縫店では何もお手伝いできないもの!」


 アンが目を輝かせて、セイラの言わんとする事を理解して興味を持った。


「そういう事。自分のスキルを伸ばす事で、ステータスを高め、他の事もある程度はこなせるようになるのよ。その中でも『旅芸人』はいろんな能力を高める事が出来る可能性があって、汎用性が高いスキルなの。だから頑張ったら頑張っただけ色んな事ができるようになるわよ」


 セイラの言葉にアンは自分のスキルに対する劣等感が無くなろうとしていた。


「そう聞くと僕のスキルはどうなってるんだろう……」


 カズマは母の説明で自信を持つアンと比べて、自分のスキルの可能性について考えこんだ。


「そうね。カズマが心配するのもわかるわ。でも、安心しなさい。スキルが発動する前と発動した後ではカズマの体力や力、俊敏性、器用さは全然違うはずよ?」


 母セイラは息子の心配を払しょくするように指摘した。


 確かにそうなのだ。


 カズマ自身もそれは感じていたのだが、改めて母セイラから言われると、確信が持てたし、それが自信にもなる。


 それはこれからの剣の修練の為のエネルギーにもなる事だから、カズマは思わず嬉しさに笑みが漏れた。


 セイラは元王国騎士団長である。


 部下達をしっかり観察し、成長を褒める事に長けていた。


 ましてや実の可愛い息子である。


 日々の成長は母親としてつぶさに観察していたから、その成長の跡は良く把握していた。


「カズマのスキルって、全てが未知なんでしょ?それって何を覚え成長するかわからないからワクワクするわね!」


 アンもセイラと一緒にカズマを励ました。


「うん!」


 カズマも六歳の男の子だ。


 褒められて嬉しくないわけがない。


「それではカズマのスキルについてはこれから実験しましょうか」


 セイラが急にそう言いだした。


「「実験?」」


「そう、実験。カズマのスキル『ゴーストサムライ』は、その一つ一つの能力が特殊過ぎると思うの。特に『霊体化』は、色々と未知すぎるから活用法についてもより詳しく調べてみる必要があるわ。──ちょっと待っていてね?」


 母セイラはそう指摘すると室内に引き返し、家の奥から赤い果物の入った袋を持って戻ってきた。


 そして、ポンとカズマにその一つを投げて渡す。


「それでは、実験の始まりよ」


 母セイラはニッコリと笑顔で言うのであった。

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