幽霊サムライ転生~ハラキリから始まる少年冒険譚~
西の果てのぺろ。
第1話 意外な転生
とある青年はその日、いつもの如く肩のあたりがなんとなく重いと感じながら、家路についていた。
時間は深夜、アルバイト帰りの大学生である。
雨もかなり強く降っていて視界も悪い。
こんな日は早く家に帰ってゆっくりしたいところだ。
地面に降り注ぐ雨に周囲の音も聞こえづらかった。
さらには街灯や車のヘッドライトが雨で出来た地面の水鏡に乱反射して視界も悪い。
青年は車が通る度に眩しさを感じながら青になった道路を横断する。
そこに信号無視のトラックが突っ込んできた。
「!」
極端に悪い視界で信号もわかりづらく、通行人にも気づかなかったのかトラックは青年を轢くとガードレールに突っ込んで停車する。
即死であった。
そこで時間が止まる。
文字通り時間が停止していた。
大振りの雨も空中で止まっているからはっきりとそう認識できたのだ。
轢かれて即死した青年に光が降り注ぐ。
これは天に召される演出だろうか?
亡くなった青年の肉体から霊体が浮かび上がる、いや、その肉体の肩辺り、半透明の黒い靄のような塊が代わりに天に召されて行く。
「え?拙者でござるか!?」
黒い靄の正体、それは先祖代々青年まで憑りついていた霊である。
遡る事、戦国時代。
青年のご先祖の裏切りでいわれなき罪を着せられて切腹を言い渡され、無念のまま死んだお人好しのサムライがいた。
そのサムライはその裏切り者に憑りついた。
子々孫々呪い続けると誓っての事だ。
だが、それに反して青年のご先祖達は子々孫々まで何不自由なく人生を過ごしては天命を全うして亡くなり、侍はその度にその子孫に憑く、という事を繰り返して今回の青年まで数百年間見守り続けていた。
「この数百年、この青年の先祖達の幸せな人生を見守って来たが、ここに来て拙者の呪いが初めて効果を出して不幸な事故になったのでござろうか……?それを見届けたから拙者は成仏できる事に?」
天に召されながらサムライの霊は無い首を傾げる。
地上では青年の霊が事故現場で倒れている自分の遺体の傍でおろおろしているのが視界に映った。
「彼も無念でござろうな……。拙者の呪いで交通事故にあったのかもしれないのでござるから……」
サムライは申し訳なさそうに、数百年の時を経て第二の人生(幽霊時代)を終え、第三の人生である異世界転生する事になる。
ちなみに、このサムライ、青年を呪い殺したと思っていたが、生前からお人好しが過ぎた為、呪うつもりで憑りついたが、結果的に先祖代々の守護霊になっていた。
青年の先祖代々、人生を幸福に送れていたのはこのサムライの霊が悪い霊を遠ざけていたからであったが、その事は憑いていた本人も憑かれていた青年の先祖代々も知る由はなかった。
青年の死はそれこそ、不運としか言えないものであった。
そして、この天に召されるイベントは本来、青年の為のものであったが、数百年もの間、青年と先祖代々の守護霊であったサムライに順番を一つ譲ったと思って大目に見てもらいたいところである。
「セイラ、よくやった!立派な男の子だぞ!」
長い青髪を後ろで結び、燃えるような赤い目を輝かせながら、ベッドで横になっている長い銀髪、金色の目をした美女の枕元に、布で包まれた赤子を置いて褒め称えた。
「うふふ。わかってますよ、ランスロット。それで名前はどうしますか?」
セイラと呼ばれた妻は夫ランスロットに肝心な事を確認した。
「……そうだな。うちは武門の家柄だ。やはり、力強い名前が良いと思うんだが?」
「そうね……、それなら伝説の剣聖『カーズマン一振斎』から少し文字ってカズマなんてどうかしら?」
「カズマ……、カズマか!それは良い名だな!よし、この子は今日からカズマだ!ランスロット・ナイツラウンドとセイラ・ナイツラウンドの息子、カズマ・ナイツラウンドだ!」
こうして、サムライの幽霊は無事、人の子として転生を果たし、第三の人生を歩む事になるのであった。
カズマと命名された元サムライの幽霊はそれからすくすくと育っていった。
一歳になり、二歳になり、三歳になる頃には母譲りの銀髪は伸び、父譲りの赤い目はやる気に燃え、カズマは父ランスロットに遊び道具として木剣を渡され、早くもその才の一端を見せ始める。
カズマは誰に教えてもらったわけでもなく、剣を柄に差した状態で腰を落とし、半身の姿勢を取った。
前世で言うところの居合抜きの構えであろうか?
三歳の子が親の真似をするでもなく、そんな独特な構えを見せ、目の前に積み上げたおもちゃの積み木を木剣で斬るように崩す様は親である父ランスロットと母セイラは素直に驚いた。
「そんな構え、どこで覚えたのだ、カズマ?」
父ランスロットは一見すると不合理と思える構えに何かを感じて三歳のカズマに聞く。
だが、カズマは答えようがなくあどけない顔で「?」という表情を浮かべた。
カズマ本人も無意識でそのように構えていたのだ。
ただ体が覚えていたように勝手にその姿勢になっていた。
だから聞かれても説明のしようがない。
「あなた、カズマが困っているでしょう?子供のお遊びなんだから」
セイラはそう言ってカズマを抱き上げる。
しかし、母セイラも夫ランスロット以上の剣士だから、カズマの独特の構えには興味津々であった。
二人は自国であるアルストラ王国の元王国騎士であり、その実績からセイラは最年少騎士団長、ランスロットは副団長まで昇りつめた過去があったから、剣にはかなりうるさい。
「うちの子は天才じゃないか?」
父ランスロットは嬉しそうに親馬鹿ぶりを発揮した。
「はいはい。この子が勘違いしてしまうから、そんな事言わないの。身の丈にあった人間に育ってくれれば私は嬉しいわ。──ねぇ、カズマ?」
母セイラは抱っこしているカズマにそう話し掛ける。
三歳のカズマには難しい問いは理解出来ない。
そう、この時はまだ、自分の前世が異世界転生を果たした幽霊サムライだとは微塵にも思っていないのであった。
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