第6話 ジャイアントトード討伐

「天井が低いな...」


 僕が、今いるのは下水道内部。

 中は狭くて、人がなんとか通れるくらいの高さだ。

 天井が低いのでジャンプは出来無いだろう。

 何故、下水道にいるかと言えば、冒険者ギルドの討伐依頼で下水道に大量発生した『ジャイアントトード』の討伐で来ていた。

 此処プリモシウィタスの街は下水道が完備されており、生活排水が浄化施設を経由して再利用されている。

 現代と違う部分は浄化施設。

 排水された汚水は、現代のように複数の浄化施設を経由して何度も浄化処理を行う必要が無いところだ。

 魔法の力で一度に、浄化水と汚泥に分ける事が出来てしまう。

 ただ、街の地下の下水道は、生活排水が直で通過する為、とても臭いがきついもの。

 鼻がひん曲がるとは、こう言う事なのだと理解する。


「臭いばかりは、どうしようも無かったか...マスクなんて売って無いし、浄化魔法なんて、そんな高位な魔法は覚えて無いし...う〜。臭い」


 そして、今いる場所は、街全体の生活排水が浄化施設を向かう前に集められる集合地点。

 目の前には大量のジャイアントトードがいた。


『ジャイアントトード』

 体長30cm〜。

 ヒキガエルが肥大化したような姿で、背中に多くのイボがある。

 皮膚やイボからは白く乳白した毒液を抽出して攻撃をしたり、外敵から身を守る為に使用する。


「...一体一体が大きくないか?」


 現実世界なら、ヒキガエルの大きさは4〜16cmくらいの大きさだ。

 目の前のヒキガエルは最低でも30cm。

 この空間に所狭しとひしめき合っていて、背筋がぞくっと冷える程気持ち悪い。

 しかも、「グワッ」、「グワッ!」と合唱が鳴り響き、地下通路に反響する為、かなり煩い。


「しかも、この数は予想していなかったな...見た目も合わさると...うっ、気持ち悪いな」


 ざっと数えても40体程が此処に存在している。

 地下施設と言う事もあり、不測の事態(下水道の崩壊)を起こさない為にも魔法が使えない。

 勢い余って施設を壊したしても、僕には弁償が出来無いからだ。


「近寄るのは、精神的にも厳しいから...っと、離れた位置から、ごめんなさい」


 ただ、流石にナイフで攻撃する勇気は、まだ持ち合わせていなかった。

 僕は、離れた場所から弓矢を使って攻撃を行う。

 ちょっと近寄るのはご勘弁と言う事で。

 そう独り言を言いながら、ジャイアントトードに狙いを済まして弓を引く。

 すると、見事に射った矢がジャイアントトードを問題無く貫いた。

 ジャイアントトードの身体から光の粒子が浮き上がり、僕の下へと吸収されて行く。


「はあ、良かった。これで強かったら、最悪だったな...」


 「ゾクッ!」とする程の嫌悪感。

 一撃で倒せる程弱い事が救いだ。

 だが、その瞬間。

 倒したジャイアントトードの身体が、まるで水風船が破れたかのように体量の毒液が周りへと飛び散った。


「うわっ!?近寄らなくて良か...って嘘だろ!?」


 爆散する体液の所為で、他のジャイアントトードの注目を浴びてしまう。

 たった一体のジャイアントトードを攻撃した事で、広場にいる他のジャイアントトードが僕に気付き、一斉に動き出したのだ。

 

「「「「「グワッ!」」」」」


 その瞬間の気持ち悪さは後になっても忘れない程。

 とても凶悪な合唱で、身震いが止まらなかった。

 何故、あの数が一斉に動き出すのだ?

 しかも、飛び跳ねながら怒ったように鳴いて。

 額からは冷や汗が流れ、心臓の鼓動の速さが、もはや動悸に近いもの。

 気持ちが動転して焦るのだが、逆に追い詰められた事で僕の闘志に火が付く。


「もう、どうにでもなれ!!...ならば、一気に!!」


 弓矢を引く手に力が入って行く。

 “やられる前にやるのだ”と。

 ジャイアントトードが僕に近寄る前に倒す。

 いや、殺す。

 だが、ジャイアントトードの数が多い。

 しかし、それのおかげか?

 逆に数が多すぎる事で、ジャイアントトードの後衛は前衛に阻まれて停滞していた。

 実質、僕が一度に相手をしなければならないのは前衛の4〜5体だけだ。


「近寄らせるか!」


 矢を射っては、すかさず次の矢を取って射る。

 これは単純な行程だが、一射も外せない。

 何故なら、これ以上近寄られたら僕の自我か持たないからだ。

 その事が、逆に僕を集中させる。

 ジャイアントトードを駆逐するまで、単純作業を延々と繰り返した。


(気持ち悪い!気持ち悪い!マジで、来るな!来るな!寄るな!近寄るな!)


 頭の中で嫌悪感がループしている。

 それをどうにか振り払うように弓を引いて矢を射る。

 何度も、何度も。

 攻撃がジャイアントトードに当たり毒液が破裂する。

 何度も、何度も。

 殺して、殺して、殺す。


「27、26、25...19、18、17」


 ジャイアントトードの残りをカウントダウンしながら矢を射って行く。

 気が付けば、この集合地点は毒液まみれで一面真っ白になっていた。


「12、11、10...6!5!4!」


 破裂が連鎖して、毒液の爆発連鎖が起きているみたいだ。

 だが、残りは目に見えて僅かしかいない。

 しかし、目の前のジャイアントトードとの距離も近くなっている。

 爆発して飛沫する毒液が、足元まで迫っているのだ。


「3!」


(あと少し!)


「2!!」


(これで!)


「1!!!」


(終わり!!)


「ゼロっ!!!!」


 最後のジャイアントトードの爆発の毒液が顔の寸前で止まった。

 これは冷や汗ものだった。

 そして、途中二、三度攻撃を外してしまったが、無事にジャイアントトードの駆逐が完了した瞬間だった。


『ルシフェル』

 称号:無し

 種族:天使LV2

 職業:魔法使いLV1


 HP

 73/73

 MP

 72/72


 STR 21

 VIT 18

 AGI 18

 INT 30

 DEX 16

 LUK 13


 [スキル]

 短剣技LV1 格闘技LV1 杖技LV1 弓技LV2(+1)


「はーっ...終わった...。おっ!弓技のレベルが上がっている!」


 スキルの内、弓技の熟練度が上がっていた。

 これは嬉しい出来事だ。

 そうして駆逐を終えた時。

 僕の肉体的な疲労は無かったが、精神的な疲労はかなりのものだった。

 だが、此処からが本番でもある。

 何故なら、討伐対象を魔法袋に入れてギルドに証明をしなければいけないからだ。

 毒液を撒き散らしたジャイアントトードは、さも潰されたように中身が薄くなって平になっていた。

 ジャイアントトードの表面のイボイボがグロい。


「これを触るのか...ええい!どうにでもなれ!」


 勇気を振り絞り、覚悟を決めて討伐したジャイアントトードを魔法袋に入れて行く。

 なるべくイボイボや身体に付着している毒液に触れないように、足の先を指で摘んで持ち上げて。

 それは濡れたゴムのような感触だった。

 足先を持ち上げるとジャイアントトードの閉じていた足はビョーンと伸びて万歳をしている。

 指先にジャイアントトードの重さを感じる。


(あれっ?これなら...うん。意外と平気かも!?)


 意外や意外。

 今迄の恐怖が何処行く風で、一度触れてみたら割りかし平気に触る事が出来た。

 それは、僕は「何を怖がっていたのだろう?」と思う程。

 すると、僕の思考が瞬時に切り替わった。


(触る前の、あの恐怖は一体何だったんだろう...?)


 見た事の無い物や触れた事の無い物に過剰に反応していただけらしい。

 ましてや、見た目のイボイボが気持ち悪かったからだ。

 そこからは、ジャイアントトードを魔法袋にどんどん収納して行く。


(他の場所に、ジャイアントトードは残っていないのかな?)


 依頼の条件が達成されているか確認する為、下水道内にジャイアントトードが残っているか調べたが、どうやら、他の場所にはいなかった。

 それならと、条件を満たしたので報奨金を受け取りに冒険者ギルドへと戻って行く。


「よし!これで完了!」

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