混沌とするハーグの会談

「まずいのう」


 ハルピン会戦大勝利の報告にウィッテは、もちろんだが龍馬も顔をしかめた。


「良くない方向へ向かうじゃろうな」


 龍馬の予想は当たった。

 直後 日本の状況が公電で入ってきた。

 ハルピンでの大勝利に国民は沸き立った。

 交渉前と言うこともあり戦勝に気を良くした国民は沿海州やオホーツク沿岸の完全併合を要求。賠償金も50億円を求めてきていた。

 しかも政府の中にも支持者が増えつつあった。

 ロシアが軍が壊滅状態の上、内戦により厭戦世論も高まっていることから日本以上に 継戦が不可能だと考えていた。

 その上、さらに要求を釣り上げるべきだという声は日に日に高まっていた。

 そのため龍馬への公電もロシア側への要求をさらに高めるように、との訓令が出ていた。


「そのような提案は受け入れられません」


 もちろんウィッテは拒否。


「そのような屈辱的な条件ではロシアは徹底して戦わざるを得ません」


 戦い続ける事が無理なのはウィッテも承知だ。だが、こうでも言わないと自陣はもちろん将来的なロシアの立場がない。

 龍馬も日本は勝ちすぎている。国民は少しいい気になりすぎていると考え、冷却させる必要、ロシア軍に程々に負けた方が良いと考えていた。

 だが、それは今のロシア軍の戦力を考えれば不可能、と思っていた。

 ただ一人 ゲオルギーを除いて。

 しかし、知らない二人はこのまま交渉を続ける事になった。


「かなり条件を上乗せしてきているようですが」


 再び交渉の席に着いたウィッテは龍馬に尋ねた。


「日本は 講和をするつもりがないのでしょうか」

「一部の世論が言っているだけで日本政府は 徹頭徹尾平和を希求しておる」


 新聞報道で東京の様子が報道されていたこともありウィッテも知っている。

 しかし、日本政府から正式に提言をしたわけではないので、龍馬は抑え気味に言っている。

 下手にあんな条件を出したらウィッテは席を蹴るだろう。

 ハルピンの大勝利があったとしてもだ。

 掌中の珠は必ず掌中にあるとは限らない。

 ハルピン会戦で勝利を収めても、次の戦いで敗北、日本軍が壊滅したらこれまでの成果が全て水の泡となる。

 いや、戦費不足で破産し、日本が壊滅する


「講和は日本の基本方針だと思ってもらいたい」


 なんとしてもここで講和しなければならない。

 強い口調で龍馬は断言した。


「進撃を続けている以上、領土拡大を狙ってるようにしか見えませんが」

「日本が求めてるのは平和である。これ以上の進軍はしない」


 龍馬は堂々と伝えた。

 戦前からの計画ではハルピンを最終到達目標とすることが決定している。

 それ以上は日本の国力が保たない。

 進撃したくても進撃出来ない。

 その事は計画を策定した満州軍総司令部が良く知っている。

 だから、龍馬はハルピンからこれ以上進撃しないと判断していた。

 だが龍馬が断言した時ウィッテに急報が入った。

 文面を読み目を見開くと龍馬に向かって問い詰めるように尋ねる。


「今、我が軍の報告が入り、日本軍の一部がハルピンからロシア国境方面、北西へ向けてへ進軍しているという報告がありました」

「バカな」


 ウィッテから日本軍が進撃していると聞いて初めて龍馬は動揺した。


「一部の部隊が偵察のために前進しているだけではないのか」

「一部だけではなく一個軍十万の兵力が移動していると報告していますが」


 ウィッテの話を聞いて聞いて龍馬は更に激しく動揺した。

 一個師団規模ならともかく、一個軍は多すぎる。明らかな大規模軍事行動、進撃とみられてもしょうが無い。

 これでは 日本が領土拡大のために戦争を継続しようとしていると見られてしまう。


「……現地軍と連絡をとり状況を確認します。少しお待ちを」


とりあえず龍馬は一旦会談を切り上げて戻ることにした。


「しかし 一体どういうことなんじゃきに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る