大統領の思惑と龍馬の演説
「日本側は交渉を妥結するつもりがないようだ」
帰りの車内でルーズベルト大統領は秘書官に言った。
才谷鯉之助という随行員長はともかく小村大臣の強硬姿勢が気になる。
全権は坂本だが派手な大風呂敷を広げており、日本が勝っているように見せかけているが、内実は限界に近く、それを悟らせまいとしている。
交渉役としては鯉之助が現実的な観点を持っているようだが、大きな力は無いと思われる。
「どうしますか」
「マッカーサー大尉に伝えろ。計画を実行するのだ」
「宜しいのですか?」
思わず随行していた大統領秘書官が聞き返す。
マッカーサーには大韓帝国皇帝に近づくように命じている。
その上で日本軍に対する攪乱工作を密かに行うよう命じていた。
朝鮮半島は日本軍の補給線だ。
ここが混乱すると日本軍の軍事能力は低下する。
そして朝鮮半島の確保はこの戦争の目的だ。
朝鮮半島が混乱すると日本は大打撃を受けるだろう。
しかし大統領は本気だった。
「日本側は賠償金を得ることに夢中だ。戦争を終わらせるつもりがない。戦争終結こそ大事であり朝鮮半島と満州の確保が重要だと気付かせる必要がある。これ以上戦っても領土も賠償金も取れない」
むしろ賠償金を与えないことが大統領の目論見だと秘書官は思った。
賠償金を得られなければ、日本は戦費を国債で賄う必要がある。それを調達出来る市場はこれまで通り、ロンドンとニューヨークのみ。
国債を発行させることで日本をアメリカ資本で支配する気だ。
そして満州開発の主導権を資本参加で握る。
賠償金を得られなかった日本はアメリカに頼る他なくアメリカの資本援助を受けることになる。
結果、日本に対するアメリカの影響力は大きくなり、支配下とは行かなくても、米国の市場が広がる事になる。
「高宗がロシアへ密書を渡した程度では動揺しそうにない。ロシアより朝鮮の安定が重要だと悟らせ、早く戦争を終わらせるよう気付かせるべきだ。それにアメリカが必要である事も日本は理解しなければならないだろう」
真面目にアジアの平和の為に大統領は、アメリカは仲介しているのではない。
その先のアメリカの国益の為に働いているのだ。
国益を得るためにあらゆる手段をとるつもりだった。
「分かりました。直ちにマッカーサー大尉に伝えます」
秘書官はホワイトハウスに到着すると通信室に入り朝鮮半島のマッカーサーに指示を出した。
「到底認めることなど出来ない!」
ルーズベルト大統領が帰った後も小村の怒りは収まらなかった
「大丈夫です小村大臣、まだ取り返しが付きます」
「ほほう、何をやるんじゃ」
面白そうに龍馬が尋ねてきた。
その龍馬に鯉之助は振り向いて笑顔で言った。
「あんたが会見開いて理由を説明するんだよ」
すぐさま龍馬は鯉之助の指示で記者団と会見を英語で開いた。
「日本が賠償金を求める理由は、戦争に対する補償である。今回の戦いはロシアの勢力圏拡大に対する日本の抵抗であり、ロシア側に非がある。義和団の事件以来、高圧的に進出してくるロシアに対する抵抗じゃきに」
鯉之助の台本通りに龍馬は、日本の正義を語る。
初めは嫌々だったが、話し始めるとエンジンが掛かり、まくし立てる。
「そのために多くの日本軍将兵が倒れた。彼らは良き息子であり父であり大黒柱だ。残された家族を国が養わなければなりません。しかし、日本は今回の戦いに国庫の全てを投げ出し、それでも足りず外国から戦債を購入していただいております。戦費だけでなく残された家族の扶養と返済のために賠償金は是非とも必要なのです。でなければこの大義に倒れた兵士達の遺族、そして日本の戦債を買って頂いた方への返済のためにも賠償金が必要だったのです」
「日本は既に戦費が尽きている、ということでしょうか」
ロシア寄りの新聞社の記者が意地悪な質問を出してくる。
しかし想定された範囲であり龍馬は堂々と答えた。
「現状、皆様が戦債を買って頂いたお陰で当面の予算は確保しております。しかし、今後の支払いを考えると必要です」
「返済が不能になるほど日本には財政的な不安があると」
日本の財政に疑問を呈された。
しかし龍馬は堂々と語り始めた。
「勿論、戦債の利払いは日本国として確実に支払います。武士の名にかけて、日本国の責任において賠償金がなかろうが必ず返済します! ですが、賠償金が入ればより確実に返済することが出来ます。金をしつこく要求したのは、戦債を買って頂いた債権者の皆様に安心して頂くためであり、以上が理由であります。債権者への義務であり、決して私腹を肥やすわけではありません。むしろロシアが、返済を滞らせようと仕掛けてきたのです」
「ロシアが日本を追い詰めようとしていると」
「むしろ賠償金の支払い能力が無いため、賠償金請求を封印するために先手を打ったのです。調べるべきはロシアの債務能力です。革命騒ぎが起きており、今後の財政に問題が無いか考えるべきでしょう。ロシア側に債務能力があるかおたずねしましたか」
「……いいえ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます