第7話


                  7


 宇来が会社の駐車場で待っている朝樹の下に行くが、朝樹に近づいても、宇来の事が分からないらしく、目の前に来ても、宇来の後方を見て、探している様だ。

 そこで、朝樹に声を掛けてみる。


「あの」

「?」

「朝樹さん」

「??」

「.....、私ですよ、宇来です、朝樹さん」


「???.....ええ?!」

 これぞ、ハトが豆鉄砲を.....と言うやつだ。



10秒ほど目の前の女の子を、じ~っとっ見てから。


   ・

   ・

   ・


「あ!!」

 と言う、大きな怒号の様な声を出す。


「宇来ちゃん?.....、だよね?」

 すかさずに

「はい、希 宇来ですが」

「うわ!、びっくり~。どこぞの美人がナンパしに来たかと思ったよ。凄く可愛いし、奇麗だね」

「あ、ありがとうございます、何か照れます....」

「いやあ、変わるもんだね~、どうしたの? どうなったの?」


 宇来は今日あった事を話し、今までの経緯を事細かに聞かせた。


               ・・・


 その後、あまり車外に出たままだと、また誰かが来るかもしれないので、宇来を素速く車に乗せ、会社を後にした。


 その時、二階の窓から、ウシシ、と笑う二人の女子社員が居た。


 慌てて車を出した物だから、宇来は後ろの席では無く、助手席に乗り込んでしまった。これはまるで、傍から見たら、まるで彼氏彼女みたいな感じである。 その状況に、朝樹は何か、昨日と違う感があるのを覚えた。


 慌てて助手席に乗ってしまった宇来も、まるで朝樹の彼女みたいに朝樹の隣に座っているものだから、何か昨日までとは違う感覚になっている事に、恥ずかしさと、照れと言う感情を覚えるのだった。


「あの、朝樹さん。 私のコレ(メイク)、会社が終わってすぐに、咲彩さんと愛美ちゃんに捕まって、あれよあれよと言う間に、弄られたんです」

「そっか...。 実は、何か咲彩さんから夕方電話があって、『夕方に、いい事があるから、期待してなさい』ッて言う連絡があったんだ」

(あ!あの時だ…もう! 咲彩さん....(宇来))


「い、いい事って、私の事なんですかね?」

「咲彩さんの言う事なんだから、そう言う事になるかな?」


 隣同士に並んでしまった事に、もの凄い照れを感じている二人だが、朝樹が宇来に前を見ながら、ボソッと言った。


「宇来ちゃん、やっぱ可愛いかったんだ....」

 それを聞いた宇来が、顔を赤くして朝樹の横顔を見つめた。


「やっぱりって....」

「初めて会った時から気が付いていたよ、この娘って可愛いのに、メガネ掛けて何で地味な容姿にしてるのかな? って」


 う~んと唸りながら、朝樹に答える。

 

「別に他意は無いんですが、わたしって小さい頃から物静かな性格で、しかも消極的で、友達と言うのも、ほんの数人しかいなくって、男子になんて、以ての外に中々話せなくって、性格が邪魔をして、陰キャになってしまったんです」

「でも、今はオレとこうして普通に喋っているじゃない」

「そうなんです。 あの最初のドラッグストアでの朝樹さんって、何か今までの男の人とは違いました。 何て言うか、こう........、こっち側に近い男の人って感じで....、って、キモイですよね、こんな女」


 朝樹は前を見ながら、宇来の一言一言を聞いて、宇来に宥める様に優しく言う。


「自分の事を、こんな女って言うなよ」

 続けて。

「オレ、最初出会ったあのドラッグストアで、『わわ! 守りたくなるような娘(こ)だな』って、思っていたんだからな。 しかも、最近じゃ、この送迎が楽しみになって来ていたんだ」

「じゃ、じゃあ、朝樹さんって、私の事を気に入ってくれているんですね」

「もちろん。お気に入りフォルダのトップに入れていい程だ、宇来ちゃ...」

 宇来が朝樹の言葉を遮り。

「宇来って呼んで下さい」


「........! じゃ、じゃあ....う、...うらい」

「はい!」


 一度、深呼吸してから、朝樹は宇来に向けて唐突に。


「宇来、オレと付き合ってくれ」

「....って、朝樹さん! 前!! まえ~!!!」


 目の前の信号が赤信号になっていたため、急ブレーキを踏んで、何とか停止線で止まった。


「は~、ビックリした~....って、あはは」


「ふふふ....」


「「あはははは........」」

 ビックリしたが、二人で大笑いした。


 少し間を置いて、宇来が、咲き誇るような微笑みで、朝樹の横顔を見ながら。


「朝樹さん、お返事 OKです。こちらこそ、コレからよろしくお願いしますね」

 返事を聞いて、ホッとする朝樹。


「ありがとう 宇来。 大事にするから」

「はい、私を大事にしてくださいね。 うふふ…」


 二人は今まで何か胸につっかえていたものが取れた様で、帰宅まで顔からは、綻びが絶えなかった。



                  △



 午後6時半、藤堂家に着いた二人は、早速リビングに行き、家族全員を呼んだ。


 母親の恵と妹の未来は、何がはじまるのか、何故かわくわくしている。 父親の拓也は、全くもって分からん と言う表情だった。


 そんな中、朝樹と宇来は、二人並んで表情硬めに、公表した。


「オレ達、今日から付き合う事になった、コレから宇来 共々、よろしく」

「今日から朝樹さんとお付き合いさせていただきますが、よろしいでしょうか?」

 恵が少しだけ、ウルッと来ている。


「まあ、良かったじゃない、宇来ちゃん、これからも、朝樹の事よろしく頼むわね、良かったわ~、ホント」

「........ そうか、分かった」

「良かったねお兄ちゃん。 宇来ちゃん、こんな兄だけど、末永くお願いします」


3人3様の答えである。


「認めて頂いて、ありがとうございます。 これからもよろしくお願いします」


「........で、さっきから気になるそのメイクは何かな?」

 今 宇来 自身も藤堂家の家族の目線に気が付いた、自分の顔が咲彩たちによって、変身している事に。


「あ、コレは........」

 そういって、今日の会社終わりのロッカールームでの出来事からを、細かく説明した。


                ・・・


「私は最初から気が付いていたわよ。 この娘(こ)ちゃんとすれば、奇麗な子だって、ね。 メガネを取った時に、確定したわよね、未来」

「うん。 あの時は、この人って、何でわざと地味にしているんだろうって思った」

「........」


「それは........」


「ま!、 それは良いから、とにかく夕飯の準備よ、宇来ちゃん 未来、キッチンで訊くから」

「はい」

「はあい」


 女性陣が去っ後のリビングには、男二人が残り、華やかだった雰囲気が、一気に.....した。


「朝樹、良かったな。 うんうん、良かった良かった」

「父さん....」


 何とも言えない雰囲気が、二人の間に流れた。



 一方キッチンでは、女性陣三人が楽しそうに、次々と惣菜を作りながら、会話が弾む。


「お兄ちゃんの何処が良かったの?」

 未来の問いに、速攻で答える宇来。


「私の容姿を気にして無い所と、朝樹さんと私が居る時、気を使わなくていい雰囲気、それに、私の事を対等に扱ってくれている所かな」

「へえ、兄って、女の子に対しては、そうなんだ」

 未来が、不思議そうに言う。


「宇来ちゃん、もうこれでウチの若嫁が決定した様なものだから、自分の事を、卑下するのは止めてね、あなたは十分に可愛い女の子なんだから、今のあなたがその証明よ」

「ホントにカワイイかったんだね、宇来ちゃん」

「それ、朝樹さんにもさっき、車の中で言われました」


 恵が感心して。

「へえ、ウチの王子も見る目があったのね。 拓也さんと言い、朝樹と言い、ウチの男どもは、女を見る目に狂いが無かったのは、褒めましょう」

「お母さん、それ半分は、手前みそ なんじゃない?」

「あらやだ! おほほ~」

「........」



 食卓に、様々な種類の惣菜が並び、未来がリビングに居る二人を呼んで、全員揃ったところで、夕食の開始になった。


 夕食が始まっても、朝樹と宇来の話が続く。


「で、あなた達、これからはどうするの?」

 聞かれた二人が、見合って迷う様な顔をする。


「基本的には、今までとは変わらないと思うけど、ただ…」

「ただなんだ?」


「宇来が春からココに来た時に、実家の両親に、女の子の一人暮らしは心配だからって。 ココで一緒に夕食を共にしている事を報告しただろ? で、その両親が、今週末こっちに挨拶に来るってさっき連絡があったんだ」

 慌てた恵が。


「やだ! そうなの?  明後日の事じゃないの、すぐに言ってよ。 それじゃ、準備をしておかなきゃいけないわね」


 明後日の事に、両親が予定を話し合っているうちに、夕ご飯が終わった。 その後も夫婦で話をしているので、朝樹は宇来を連れて、2階にある朝樹の部屋に移動した。


「そう言えば、朝樹さんの部屋って、初めてだった」

「あ、そう言えば、ご飯終わったら、時期に俺が送って行ってたからな」

「きちんとしてるのね、性格が出ているわ」


 宇来が、少し周りを見渡した後で。


「急でビックリしたかしら、おじさまとおばさま」

「何しろ明後日の事だからな、明日は母さん大忙しだと思う」

「何か悪かったかな~って思う」

「でもオレも正式に付き合う事になったからには、宇来の両親に会いに行かないと」

「あら、そう思ってくれているんだ。やっぱ、朝樹さんはとっても誠実なんだな~」

「自分では分からないけど、傍(はた)から見たら、そう見てもらえてるんだな」


 そう言っていると、朝樹のスマホの着信音がした。


「悪い、ちょっといいか?」

「うん」


 そう言って、朝樹は電話に出た。


「もしもし?」

『もしもし朝樹、今いいか?』

「ああ、少しならいいが、何だ? 流」

 友人の 吉田 流 からだった。


『何って、今度の合コンの話なんだけど』

 わずかに聞こえるスマホからの、 合コン と言う言葉に、宇来は朝樹を見つめた。


「あ~、その話? で何時なんだ?」

『お!やる気みたいな感じじゃん』

「いや、そう言う訳では無いんだけどな」


 ふ~、っと溜息をついた流。


『何だよ、朝樹が来てくれたら、双方美形が揃うのに....って、今回は来てくれるんだよな?』

 時々聞こえるやり取りに、宇来が不安になってくる。


 だが。


「あ~オレ行かないぞ」

『な! どうしたんだ? 今度は行ってくれる様な雰囲気だったのに』

「あ~、それな。 ごめ~ん。 オレ彼女出来た」

 この言葉に、宇来が目を大きくした。


『マジか? いつどこで?』

「今日、会社からの帰りに、告った」

『え??........、あ、分かった、同じ会社のあの地味子ちゃんか?』

「へっへ~ん。 言ってろ! オレにとっては、世界一の天使だからな」


 聞いた宇来が、真っ赤になり、両手を顔に当てた。


『おいおい本気か? ....って、でも、頭数合わせには来てくれるんだろ?』

「悪いな、今回からは、無理になる、 って言うか、彼女、今オレの隣でコレ聞いてるからな」

『わ!、 そうなのか?、ごめ~ん。 謝っといてくれ、ホントに スマン!』

 流の必死に陳謝する言葉に、クスクスと破顔する、宇来。


「良かったな、彼女、怒ってないみたいだぞ」

『お~、微かに声が聞こえるが、可愛い声だな、羨ましいぞ朝樹、このやろ~』

「そんなんで、悪いな、そう言う事だ 流」

『あ~あ、じゃ、他を当たるかな、残念だけど。 まとにかく、上手くやれよ、じゃあな』

「おう、またな」


 そう言って、朝樹は電話を切った。 切ったが、宇来は少し不機嫌になっていて、朝樹に質問した。


「朝樹さん。 いつも合コンに行ってたんですか?」

 ちょっと引く、朝樹。


「毎回では無いが、ちょくちょく....」

「ホントですか?」

「って言うか、数合わせばっかだけどな」

「ホントに~....?」

「何でそこまで疑うんだ?」

「だって....、朝樹さん、カッコいいもん」

「オレが??」

「え~!! 自分の事、分かって無~い」

「いやいや。 いつも朝には、鏡で顔は見てるが、何ともなぁ....、って、今日の宇来だってどうなっちゃってるんだ?」

「そ、それは....」

「オレ、宇来が可愛いのは見破っていたけど、今日こんなに可愛いと、オレ心配で困る」

 この朝樹の言葉に、宇来の顔がちょっと ボン! と爆ぜた。


「そんなに褒められると、恥ずかしいよ~」

「だから、俺に会う以外で、可愛くなるメイクはしないでくれよ」

「う~........、分かりました。でも、朝樹さんも、これからは絶対に、合コンはダメですからね。コレ絶対です」

「行くわけないじゃん。 こんなカワイイ彼女がいるのに」

「またそんな事 ・い・・・」


 言葉を遮る様に、朝樹が宇来を抱き寄せて、少し長めのキスをした。


「「........」」




 暫くして、離れると。


「朝樹さん、不意打ちは卑怯です」

 さらに、顔を赤らめた宇来。


「ははは、イヤだったのか?」

「そ、それは........、嬉しいですけど」

「よっしゃ~」

 ガッツポーズの朝樹。

「もう!」

「へへ、やったモン勝ち~」


 そう言ったとたん、今度は宇来から浅いキスが来た。


「「........」」


 最中に、1階から、恵の声が聞こえた。


「宇来ちゃ~ん、もう8時よ~。 泊まって行くの~」

 この言葉と共に、二人はようやく離れた。 そして、二人揃って、部屋を出て、リビングに行った。


「あら、泊って行かないの? 宇来ちゃん」

 なんと、交際宣言のすぐ後に、お泊りと言う、いきなりの高ハードル言語に、宇来は狼狽(うろた)える。


「か、帰ります。 お邪魔しました、ご馳走様でした」

「あら、まだ早かったかしら? でも、未来の部屋でも良いから時々止まりに来てもいいかもよ、考えておいてね、朝樹の お、よ、め、さん」


 この恵の発言に、宇来が、これ以上ないほどの赤い顔になってしまった。


「じゃ、じゃあ、おやすみなさい」

「「はい、おやすみ」」


 両親に挨拶して、朝樹に送ってもらいながら、自分のアパートに向かう宇来だが、今日の藤堂家では、宇来の顔は爆ぜっぱなしだった。




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