第2話


                  2


 皆川 叶と言う人物は、出来る女子である。


 成績、容姿は申し分無く、淑やかで、人当たりが良い。 全く持っての、容姿端麗、才色兼備、品行方正、成績優秀、冷静沈着、ETC....、プラス要素な四文字熟語のどれもが当てはまる人物なのに、ある理由があって、叶の方から告られて、貴は人生のラッキーをこの一瞬で使い切ってしまったかも、という不安もあったが、いざ付き合い始めてみると、何も気取りが無く、高飛車と言う言葉などは、全く無縁の様な人格に、貴は只々驚くと共に、居心地の良い恋愛時間を過ごす事になって居る。


「叶、帰ろか」

「うん」


 この二人の付き合いには、意外に邪魔するものは居なかった。むしろ、双方が普段好意的に周りと接触しているものだから、意外にすんなりと周囲が受け入れてくれたのだ。


「あのね、今日....」

「なに?」



 ........こんな風に、楽しく会話をしながら毎日一緒に下校する姿は、暫く経つと、通常の光景として、周りも落ち着いて通常と認識している。


だが....。


だが、その二人の姿を良しと受け止めない見解の女子が居た。


橋本 瑠美奈  だった。


「ぐぬぬ....。タカシは私のモノだったのに、横からかっ攫っていって、絶対に許せない....。許さないから」

 握り拳をしながら、小声で悔しく呟く瑠美奈。


 貴と出会って親しくなってからの瑠美奈は、大きくなったら絶対に、貴を独り占めしようと思っていた矢先の出来事に、今までの接近的な苦労が、この光景を見て、闘志と嫉妬の感情で心を埋めていた。



「じゃあココで」

「ありがとう、また明日」

「あぁ」


 何処にも寄らず、叶と別れた後、そのまますんなりと残された家路を歩いて行く貴。 そこへ....。



「たぁかし~」


 そう言って、入れ替わりの様に近づいて来たのは瑠美奈だった。

 空いている方の腕にしがみ付き、いつもの様にべっとりとくっ付いて離れない。ベッタリでは無く“べっとり” だ。


「瑠美奈。 また後つけてたのか?」

「へっへ~....そうだよ。あの女が去るのを待ってたんだよぉ」

「モモは?一緒じゃないのか」

「桃菜は先に帰ったよ。付き合ってらんないって言って」

「そりゃそうだろな」


 若干の呆れ顔で、瑠美奈を見下ろす貴。


「タカシ、あの女とは、いつまで付き合うの?」

「まだ付き合い始めのカップルに、その言葉は無いな」

「だってぇ、私がずぅっと前からタカシの事好きだって言ってたのに、知らないうちに勝手に他の女と付き合い始めてるんだもん、私にとってあの女は、泥棒ネコだよぉ」

 発達中の胸を貴の腕に故意に押し付けながら、若干の膨れ顔をしながら、貴に苦言を言ってきた。

 最近、瑠美奈からの好意を知りってはいるのだが、特に叶と付き合う様になってからの瑠美奈の態度が、以前とは明らかに違う事に、貴も内心では、若干の罪悪感を覚えている。



 罪悪感である。

            


 家に着いてからの貴は、桃菜から抗議を受けた。


「瑠美奈からさっき苦情の連絡があったよ、お兄ちゃん」

「だろうな。 オレもさっきまで瑠美奈と一緒だったからな。 相当怒っていただろうな」

「怒りだったよ」

「そうか....」

「それに....」

「それに?」

 一呼吸置いて。


「最後の方は多分だけど、泣いていたと思うよ」

「....そうか....」



 貴は、コレが後に数ヵ月にわたり続くと思うと、さらなる罪悪感と、やるせなさに苛まれた。




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