観光しよう!
軽く運動をして体を伸ばし再びログイン。動画編集を終え今回こそBANされないよう祈りながら投稿した後の話である。投稿したのはAPで各地を歩く動画とAP戦闘、そして生身戦闘の計3本。面白いかは知らないが何かの情報にはなるはずである。
視界が開けるとそこはAPのコクピット、そしてもう慣れてきたレイナの膝の上である。
「投稿どうだった?」
「まあ上手く行ったんじゃないか?」
メタ発言OKな高度なNPCという概念に恐怖を感じながら話をする。周囲は戦闘していた場所そのままで、辺りには機械獣の死骸が増えている。
そういや街の外でログアウトすると体が残るという話があったが守ってくれていたわけである。感謝を告げようとすると口の中にしなやかな指を突っ込まれて舌を確保された。
「タン」
「おひ、ひおをふっへひほはんひふるきはろ」
「うーん、塩はないんだよね。海が汚染されたから」
そう言いながらレイナは感謝キャンセラーの指を外す。コクピット内では息苦しいから酸素マスクを外していたのだが次からは付けておくべきかもしれない。適当なことを考えているとレイナの不安そうな顔が目に入る。
「……次は何する?」
そういや目的が一緒にいるみたいな話だった。なら機械獣を倒すという目的は達成されてしまったわけで、もし何もないなら再び体をロックされる時間が始まってしまう。
それは役得だけどつまらない、かといって目標になるものないしな……と思ったところで一つ大きなものを見つける。これは見ておくべきだ、でなければあまりにもつまらない。
「なあ」
「どうしたんだい?電力の心配はないよ、くすねてきた分が残っているからね」
「聞いてねーよ。次に行きたいところ、あったわ」
「へぇ、一体何処だい?」
そう言われたからこそ俺は自信満々に返す。絶対に興味が湧く最高のものを。
「分裂体!」
「……冗談でしょ」
冗談ではなかったため俺は更に東に向かって進んでいた。警戒のためにコクピットから出たレイナが辺りを見渡さず、こちらを見てニコニコしている。それでいて出てきた機械獣は全て殺し切っているのが恐ろしい所だ。
周囲は草原のようになっており機械獣の姿も意外と少ない。だが走っている中で気になるものが転がっていた。グロテスクな獣の頭だ。それだけで数メートルを超える、機械獣にしてはあまりにも大きい。
恐らく元は蜥蜴か何かだったのだろう。それを金属柱で無理やり矯正し人の頭のように捻じ曲げている。長く時がたち肉は腐っているものの上半分は残っていた。顎部分はほとんど残っておらずちぎれた耳が舌の如く垂れ下がっている。そして目が有ったはずの場所の奥に無数の小さな頭蓋骨があり虚空を見つめていた。気持ち悪い。
「うわ、何だあれ」
「君がお望みの融合型Apollyonさ」
「嘘だろ!?いやあれロボットなのか?」
「融合型はApollyonと名前がついてるけどその実、完全な別物さ。本来は虚重原子反応による機械オンリーでの構成を予定していたが『基底崩壊』により不可能になった。そして2050年を迎え、恐怖を抱えた人類がゴミ箱から引っ張り出したのがApollyon計画」
えっと、元の計画→失敗→破滅→慌てて復活、ということなのか。頭を混乱が覆っている俺を見て苦笑しながらレイナは続けた。
「だけど『基底崩壊』が起きた以上使えないものが多すぎた。そこで科学者は考えたわけだ。形がApollyonで性能が十分ならばそれは成功だと」
「……それで機械獣を?」
「そうさ。ほらあの頭蓋骨の中にいくつも小さな頭があるだろう?全て機械獣だ。核で倒した分裂体を基盤として大量に肉を切り貼りして出来たキメラ。人類の恐怖の象徴さ」
「いや機械獣切り刻んでいる時点で恐怖してないんじゃない?」
「人類は自分たちの技術から逃げたんだよ。私たちの物では無理だ、分裂体を倒せるのは分裂体しかいないと言ってね。数十メートルの巨体なんていう非効率で巨大な、信仰するための像を。あんな杜撰な制御システム組んだの本当に許さないよ……!」
よくわからないがレイナは融合体がとてもお嫌いなようである。何か融合体。やらかしたのだろうか?と、視界に入った気持ち悪い頭――融合体Apollyonの残骸を見ているうちにふと不安になってコクピットのパーツを少し外す。良かった、中身はあんな肉じゃなくてきちんとした機械だ。レイナ曰くこっちが本来のApollyon計画に近い形であるとのことだ。サイズが違いすぎるけど。
しかし今の話だと過去のApollyon計画とやらもそうとう杜撰な計画なのではないかと思って聞いたがどうやら違うらしい。完全に機械であるため資源さえあれば量産も容易、マイナス質量物質による軽量化により宙返りしながら戦えると。一方融合型は鈍重な動きしかできない、出力が同じだけのハリボテでしかないようだ。
「しかし今更だけど分裂体なんて見に行って無事に生きて帰れるのか?不安になってきたぞ」
「本当に今更だね!まあ大丈夫さ。分裂体は自重に耐えられないから鈍重、APの足なら逃げきれる。とはいっても命の危険が伴うから危なくなったら下がってもらうからね」
「アトラクションかな?」
「私にとってはそんなものさ。奴らの恐ろしいところは再生するし硬いし、という部分でしかない。特殊兵装がないなら3日戦っても負けない」
「理不尽すぎるだろお前」
「まあ世界に3人しかいないからね、第二世代は。1と2と
……そう考えると俺は今凄い味方をゲットしたのかもしれない。融合型用の兵装に加え第二世代獣人、もしかしてこの緊急クエスト可能性があるのか?というかなるほど、そんな化け物作れる技術があるのに不安定っぽい巨大ロボットに力を入れている姿こそ自らの技術から逃げている、ということの意味なのか。
そんなことを思いながら更に前に進んでゆく。APの足が沈む音とレイナの鼻歌以外何もない、静かな世界だ。地面に飲み込まれたビルの上を結晶樹が覆い花を咲かせている。
「ふんふふーん」
「それ何だっけ、ブブブーブ・ブーブブの主題歌だったか」
「正解。そういや漫画、今は何を貸しているんだっけ?」
「あれだよ、スーパーデフレーション。主人公の男の子が偽札を体から出す能力で攫われた姉を救う話」
「感想は?」
「……謎。よくわからないギャグ作品かなって思ったら凄まじい頭脳戦入れてくるし、かと思ったらシリアスシーンで謎の1コマが入ってる。何というか、形容しがたいよな」
「あーそういえばそうだった。不思議な作品だよね、作家性って正にああいうのを言うんだと思ったね」
「確かに変な統一感みたいなのあるよな。違和感があるのにするっと読めてしまうというか。ってかお前めっちゃ漫画好きだよな、何でだ?」
そう言うとレイナが少し黙りポンポンと手のひらの上の小石をもてあそぶ。因みにさっき持っていた同じ感じの石ころは機械獣の脳天を貫き爆散した。拳銃に謝って欲しい所である。
「……楽しいから?」
「いや答えになってないぞ」
「そうとしか言いようが無いからなぁ」
「じゃあ初めての漫画は何だよ」
「確か研究員が持ち込んでいたくるひと賛歌って作品かな」
「あれヤバいやつだろ、確か。主人公が犬と交尾させられそうになるとか人間天ぷらとかとんでもない内容だったと思うんだが」
「そうそう。でも凄いじゃないか。私はさ、当時まで戦闘しか脳に無かったしそれさえあればいいって思ってた。だけど衝撃を受けたよ、こんなに自分と違う世界、違う思考、違う背景があるなんて」
「初手が酷いな本当に。……ということは初めて読んだのがとらぶるアークネスとかなら超エロ女に変わっていた可能性もあるのか」
「あったかもね。でもそれはきっかけに過ぎなくて根本的に楽しいことをしたい、それが私だと思うよ。……見えてきた。あれが分裂体だ」
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